■ 屈折矯正手術の問題点
目次
◆ 角膜混濁
ピーアールケー、レーゼック、エピレーシックに起こる合併症です。
角膜上皮層を侵襲してボーマン膜が失われるために起こると考えられています。
マイナス6D以下ではほとんど起こることはありません。起こった場合でも通常、半年ほどで徐々に軽減していきますが、残るような症例に対してはステロイドやマイトマイシンをいう抗癌剤として使われている点眼薬を処方する、角膜表層切除術(ピーティーケー)で混濁した角膜を除去する、などの対応をしなければなりません。なお、術後、1週間までの角膜混濁は上皮層が再生するため必ず起こるものですから心配ありません。
◆ 夜間視力の低下
夜間性近視は、すべてのレーザー屈折矯正手術後に起こる副作用です。
屈折異常は角膜のカーブを変えて治しますので、レーザーを照射した領域と照射されていない域では光の屈折に差が出ます。周辺から入った光は近視側に結びますので瞳孔が大きく開くかたや、エキシマレーザーで照射領域が小さく深く削ったかたは暗場所で視力が低下します。
ほとんど自覚しないかたもいますが、強度近視で瞳孔が大きい若いかたは特に自覚します。
◆ 視力の日内変動
強度近視の治療後に特に自覚される副作用です。
レーザー屈折矯正手術では角膜を削りますので、角膜は必ず薄くなります。角膜は眼圧でその形を保持しています。眼圧は1日の中で変動しますので、薄い角膜ではその形状の変化により視力が変動します。なお、昼間、長時間近くを見続けていたかたで夕方の視力が低下する場合がありますが、その原因は毛様体の緊張で一過性の近視が出ていることによります。
◆ ハロ
暗い場所で光の周囲が滲んでコントラストが低下して見える状態です。
マイクロケラトームを用いた場合、照射領域が小さいか瞳孔が大きい場合、強度近視の矯正後などの副作用として起こります。近視が残った場合もハロを自覚します。角膜混濁やサハラ砂漠症候群などの合併症があればかなり強いハロが起こります。マイクロケラトームによる微小なスジでも光の回折現象でハロが起こります。イントラレーシックではハロは非常に少なくなります。
通常、ハロは3ヶ月頃をピークとして徐々に消えていきます。照射を広く設定すればハロが少なくなりますが、角膜が薄い強度近視では照射を広げられないためハロが残る場合があります。また、瞳孔が大きいかたもハロがでます。しかし、年齢が進むと瞳孔は小さくなるので徐々に軽減していきます。
◆ ドライアイ
レーザー屈折矯正手術は角膜を処理するため多かれ少なかれドライアイが起こります。
特にレーシックはフラップが厚く一時的に神経枝を切断して知覚神経を低下させますので、レーゼックやイントラレーシックよりも起こりやすくなります。ドライアイはコンタクトレンズを長期に使用した、眼を少し開けて寝る、二重瞼の手術を受けた、コンピュータを長く見る、気圧の低い場所で勤務するなどのかたに起こります。通常、ドライアイは1ヶ月ほどで徐々に回復します。
ドライアイが重い場合は涙成分や油性の点眼薬、自己結成の点眼薬を使うか、涙点プラグをつけると治ります。
◆ ヘイズとグレア
角膜混濁がおこっている状態をヘイズといい、見え方はハロと同じようにコントラストが低下し、全体に白っぽい見え方になる合併症です。
強度近視にピーアールケー、レーゼック、エピレーシックを行った場合に発生します。
グレアとは光がまぶしく見える現象で、角膜混濁で光が散乱するために起こります。
レーシック後のサハラ砂漠症候群でもこうした合併症が起こります。こうした状態は半年ぐらいで徐々に軽減していきますが、長期的に続いて稀に残ることもあります。
◆ フラップ不良
レーゼックやエピレーシックでは上皮フラップが不良でも2週間ほどすれば再生して問題なく治ります。レーシックのフラップは再生しない実質層に作るため、フラップ不良は問題です。性能の悪いマイクロケラトームが原因となることもありますが、ほとんどの場合、マイクロケラトームの扱いが未熟な執刀医が原因で起こります。マイクロケラトームはアタッチメントを吸引固定してからヘッドを固定しますが、扱い方が悪いと吸引不良を起こします。吸引されていないアタッチメントを押し付けた場合、アタッチメントをひねって吸引不良のままヘッドを勧めた場合などフラップが切り取られます(フリーフラップ)。また、フラップをずらして作った場合は乱視が出ます。フラップ作成に時間がかかりすぎると、角膜が乾燥しフラップ中央部が抜ける事故(ボタンホールフラップ)も起こります。また、マイクロケラトームが止まったときに適切な処置がとれない場合、フラップが一部しか作られず、対応が悪いためにその後の手術が二度と出来なくなる場合があります。
◆ エピセリウムイングロース
フラップの下に角膜上皮細胞が侵入して起こります。
上皮細胞は再生能力が高く、フラップの固着が不十分な場合に起こります。そうした場合はフラップを再度めくって洗浄することで治すことができます。再手術で前回のフラップをめくり直した場合にも起こることがあります。露出の大きな眼をしているかたや眼をこする癖があるかたにもエピセリウムイングロースが起こる場合があります。
◆ サハラ砂漠症候群
サハラ砂漠症候群はレーシック後のフラップ面に原因不明の班状や砂状の混濁が生じるものです。発生は0.03%ときわめて低率ですが、一度起こるとなかなか治りません。角膜に特有なゆがみが起こり、遠視や不正乱視を伴います。半年ほどで収束していきますが、なかなか治らない場合はフラップの洗浄が必要になります。
◆ 近視への戻り
すべてのレーザー屈折矯正手術において近視への戻りが出ることがあります。
発生例はピーアールケー、レーゼック、エピレーシックで多く、レーシックやイントラレーシックではあまり起こりません。ピーアールケー、レーゼック、エピレーシックで起こりやすいのは、角膜上皮層を侵襲することとボーマン膜が失われるためと考えられています。照射量の設定やエキシマレーザーのエネルギー不足など医師側の原因もありますが、強度近視で照射量が多い、角膜水分量が多い、眼圧が高い、術後に裸眼で近くを見続けることなどが原因で起こる場合があります。
特に照射量が多ければ削るときの誤差が影響します。また、術後に遠視のメガネをせずに長時間近くを見続ける場合は近視傾向が出ます。角膜の水分量を測定することは出来ないため、どんなに精度よく照射しても低矯正や過矯正の可能性はあります。
【参考文献】 2009年版 近視レーザー手術ガイドブック