▶ 近視手術のあとの点眼薬について
▶ LASIKで緑内障 : もう一つのリスクファクター
薬剤師A
LASIKの後遺症 + LASIK後の点眼薬での副作用 = 失明の危機 というお話です。
もし、メガネ屋さんのお客さんや、あなたのご家族や友人で、LASIK後に色々な目薬を施設から渡されている人を目にされたら、ぜひ、アドバイスをして差し上げて下さいm(__)m
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塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)は副交感神経を刺激して瞳孔を小さく(縮瞳)し、眼圧を下げるため、緑内障の検査、治療薬として用いる、れっきとした「劇薬指定医薬品」です。
ところが、最近、この点眼薬が適応外(緑内障の検査、治療薬以外)の薬効を期待して、LASIK施設から、LASIK術後眼に処方されることが多いのです。
それは、どういう目的を狙ってかと言いますと、
1.術後のハロの出現の軽減
2.過矯正の状態の緩和
です。
皆さんも良くご存じの通り、瞳孔径は、瞳孔散大筋という瞳孔を大きくさせる虹彩筋(交感神経支配)と、瞳孔括約筋という瞳孔を絞る働きをする虹彩筋(副交感神経支配)のバランスで決定されます。
LASIKを受けた人は、夜間だけでなく、「日中に白いシャツを着た人を見ると、周りに白くモヤがかかる」と訴えます。
これはもちろん、日中明るい場所にあっても交感神経が緊張している状態では、瞳孔は瞳孔散大筋の働きにより大きく広がり、瞳孔を絞り難くなりピントが甘くなり、ハロは出現し易くなるためです。
そこで、ハロを主訴にレーシック施設に相談すると、たいてい、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)が処方されるわけです。
塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の点眼によって、瞳孔括約筋の収縮を強められ、相対的に瞳孔散大筋の働きとバランスが取れるようになり、理論的にはハロは感じ難くなるという考え方です。
しかも、ハロの症状は術後の長期間に渡ることが多く、必然的に長期間の塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の処方がされているのです。
しかし、この処方には大きな問題があります。
まず、短期的副作用として、そもそも、その点眼により当然、縮瞳するわけですから、そのことにより視界が暗くなります。
また、同時に、点眼により一時的な「近視化」が起こります。
この副作用を利用して、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)で術後の近視過矯正、すなわち遠視の状態の緩和を試みるレーシック施設まで出てきました・・・。
それだけでなく、一番の問題は、長期的な副作用として、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の長期投与は、眼類天疱瘡(角膜上皮障害、乾性角結膜炎、結膜萎縮)や、虹彩の萎縮や、虹彩炎を引き起こす可能性があることが知られています。
また、そのような重大な副作用に至らなかったとしても、将来、白内障手術を受ける際に、長期間、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)を使用してきた眼では、瞳孔が不可逆的に収縮・固着していて手術が困難になることも、あるそうです。
実際に私とS医師は、A大病院においてそれを目の当たりにし、LASIK後に不具合(ハロや近視過矯正)を訴える患者に対して、いかに危険な点眼薬の投与がされているのかを知りました。
ハロの処置のために、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)を一年以上も、ある町中のとあるレーシック施設から処方されて、昼夜を問わずドボドボと使い続けていた人が、虹彩癒着を起こしてしまったのです。
それも、一人だけでなく、そのような人がちらほら受診してきました。
中には、虹彩後癒着がひどく進行し、一歩間違うと緑内障を併発して失明していたかもしれないほどの、重症の患者さんもいました。
さらに、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)は、網膜裂孔、硝子体牽引の患者には、副作用として網膜剥離を誘発するおそれがあるため禁忌ですが、明らかに、網膜裂孔、硝子体牽引の眼底像を示す患者(S医師曰く、もともと、強度近視のかたで、LASIK術前に、ろくに眼底検査もされずにLASIKを受けたのだろうと・・・)に、お構いなしに処方されている例もありました。
さらに、保険制度的にもグレーな行ないをしているLASIK施設があります。
このハロや、近視過矯正への処置としての、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の「適応外処方」(本来の目的、すなわち、緑内障治療以外での使い方をすること)は、本来は、健康保険法の規則に基づいて、適応外処方には健康保険が利きませんから、通常、患者さんは全額実費負担で、医療費の負担が大きくなってしまう、ということが起こる「はず」です。
ところが、驚いたことに、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)をLASIK施設で長期にわたって受け取っていたいた人たちは、健康保険適応の値段で目薬を処方されていました。
一体、そのカルテにはどういう保険適用の病名をつけられて書かれているのでしょうか・・・。
混合診療(保険診療と非保険診療の混在)を認めていない現在の制度では、保険病名(適応外の薬効を期待して薬を処方したり検査を行った場合に、本来患者さんにない病気(この場合、高眼圧症など)をカルテの病名欄に書く行為)が黒に近いグレーゾーン(?)で横行していて、これは、保険医(医療保険を請求する資格のある医師)としての行為からは、あまりに逸脱していると思います。
たいていのLASIK施設は、点眼薬を施設内処方します。
これは、なぜだかわかりますか・・・?
もし、施設外(院外)処方にする、ということは患者が処方箋を持って、全国どこの調剤薬局で点眼薬をもらっても良いということで、どこの調剤薬局にでも患者が「行きうる」状態になるわけです。
そうなると、そこの調剤薬局の薬剤師は、服薬指導義務がありますので、保険処方での、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の処方箋を見ると、「この患者さんは、高眼圧症、あるいは緑内障である」と普通は思うわけで、もちろん、「これは、緑内障の薬で、云々・・・」の服薬指導を行うことになるわけです。
そこで、もし、この患者さんが、「あれ?あの医者は、これはLASIK後のハロの防止だって言ってましたけど・・・」など言おうものなら、薬剤師には処方医の照会義務があるわけでして・・・。
また、患者さんは、薬の「適応外処方」のリスクの認識をもっと持たれた方が良いと思います。
といいますのも、適応外使用による副作用については、国の機関への報告が義務付けられていないので、その情報が表面に出ることなく、事例として隠れて(隠されて)しまうのです。
医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法 (医薬品機構法)における副作用とは、
「医薬品が適正な使用目的に従い、適正に使用された場合においても、その医薬品により人に発現する有害な反応をいう」と規定され、当該薬剤の 承 認 さ れ た 適 応 に対し、適切な用法・用量で治療を行った場合に同機構による副作用による救済の対象になりますが、適応外使用による場合には保護されないのです。
LASIK後、施設から塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)を処方され、長期間使われている方がいらしたら、私から警鐘をならします。
ハロにしても、近視過矯正(手術によって遠視になってしまったという こと)にしても、塩酸ピロカルピン(商品名サンピロ)の点眼では、決して根本的解決にはなりません。
実際のところ近視手術によって、遠見視力はよいけれど、正視ではなく軽度の遠視になっている、という例が多いのです。
遠視になると、たとえ軽度であってもパソコン作業や読書などの場合の眼精疲労のおそれが高まりますし、屋外でのまぶしさが気になることも多くなります。
その場合の解決策は
1)再手術
2)眼鏡装用
3)コンタクトレンズ装用
のどれかですが、1)は、角膜をより薄くすることになりますし、その精度的な点も、2)や3)に比べて劣りまして、2度目の手術で両眼がぴったり正視になるという保証もないわけです。
しかも、もしも、うまく過矯正が再手術により修正され、遠視による眼精疲労がおさまったとしても、今度は、コントラストの低下が問題になります。
酷いときでは、コントラストの低下により、今度は、近くを見ても遠くを見ても、文字の輪郭がぼやけてしまい、くっきり見えなくなる、もはや矯正不能な生涯にわたる視力低下を引き起こすのです。
ではあなたは、2)か3)かであれば、どちらを選びますか?
ただ、コンタクトレンズを希望しても、レーシック眼の角膜のカーブの状態によっては、残念ながら適応外となることがあります。
▶LASIKで緑内障 : もう一つのリスクファクター
薬剤師A
みなさんは、「ステロイド緑内障」っていう用語をご存じでしょうか?
ステロイド緑内障とは、治療に使ったステロイド剤が原因で、続発的に起こる緑内障です。
ステロイドホルモンを含む薬物を継続的に使用すると房水流出が障害されて眼圧が上がることがあり、その眼圧の上昇はなんと、30 ~60 mmHgなどと, かなり高くなることも少なくはありません。
その発現機序としては、ステロイドの内服や外用により隅角(線維柱帯)における房水流出抵抗の増加が考えられていて、若年者ではより早く、かつ強く反応する傾向があることがわかっています。
そして、ステロイド剤が原因であることを除けば、高眼圧放置によって引き起こされる病態は、原発開放隅角緑内障と同じです。 原発開放隅角緑内障とほぼ同じ経過をとり、放置すると視神経萎縮を起こして失明しかねません。
たとえば、アレルギー性結膜炎や角膜炎などの治療のために、ステロイド点眼薬を1ヶ月以上長期にわたって連用すると、もともと健康であった目でも眼圧が上昇してくることがあります。
そして、この眼圧上昇応答には個人差があって、特に、いわゆる「ステロイドレスポンダー(ステロイド反応者)」と呼ばれる人にステロイド剤を投与すると、眼圧の急上昇が起こり、それを放置すると危険な状態に陥ります。
さて、レーシック手術後の炎症を抑えるため、多くの目薬や薬を服用しますが、その中に、ステロイド剤があるわけです。
その例として、
・0.1% サンベタゾン(一般名:リン酸ベタメタゾンナトリウム)
・0.05% DMゾロン(一般名:デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム)
・0.1% リンデロン(一般名:ベタメタゾン)
・0.1% フルメトロン(一般名:フルオロメトロン)
・内服プレドニン(一般名:プレドニゾロン)(イントラレーシックの場合は必須)
などがあります。
このように、ステロイドといっても様々な薬物がありますが、ステロイドの眼圧上昇作用は、その抗炎症作用と密接な関係があり、抗炎症作用の高いものほど、眼圧上昇作用も強いとされていて、LASIK術後に多用される、ベタメタゾンやデキサメタゾンはフルオロメトロンやテトラヒドロトリアムシノロンに比較して眼圧上昇作用が強いとされています。
また、内服などの全身投与と比べると点眼や眼瞼への軟膏塗布などの局所投与の方が眼圧上昇をきたしやすいといわれています。
なぜ、LASIK術後に、ステロイド剤が必要になるかといいますと、上皮下混濁(いわゆる、ヘイズ)の予防、消炎を目的として使用されるのと、特に、イントラレーシックでは、術後の層間角膜炎(いわゆる、(サハラ砂漠症候群/DLK):フラップ下に白濁が起きてかすみや視力低下をきたす合併症)が起こりやすいので、その予防のために、特に高濃度のステロイド点眼やステロイドの内服を行わなければならないのです。
また、このステロイド剤、眼科の範囲だけでも、緑内障の他にも、白内障、そして易感染性(免疫力を低下によるもの)を生じることが有名です。
これらの現象は、もちろん、ステロイドの投与量が多いほど、そして投与期間が長いほど生じやすいのです。
実際に、K大病院に訪れた患者さんの中には、術後半年以上使用されているかたもちらほらおり、S医師による診察で、残念ながら、既に視神経の萎縮および、視野の欠損が認められたケースもありました。
しかも、それらの患者さんは漠然と、頭痛や吐き気などの症状を訴え、眼科を受診してきましたので、薬歴をお聞きするまでは、まさか、LASIK施設からのステロイド点眼薬が原因だとは思いませんでした。
幸い、患者さんはすぐにステロイド薬の投与を辞め、それ以上の進行は免れましたが、一歩間違うと失明しかねないケースでありました。
「ステロイド緑内障」そのものは、いまどき起こりえない、起こす医者などいないと思われるほどに、まともな眼科医には周知のことです。
しかし、現実には、LASIK施設においては、非接触型の不正確な眼圧測定が行われ、その結果医師の見逃しなども発生しており、さらに、術前の、ステロイド剤に対する眼圧の反応性のチェックもされていないケースもありました。
そのようなズサンな点眼薬管理も、LASIKで緑内障になるもう一つのリスクファクターとして、ぜひ、覚えておいていただきたいです。
困ったことに、この「ステロイド緑内障」の初期症状は、眼が疲れやすい、眼が時々かすむ、視野が狭くなる、夜間など光のまわりに色の付いた輪が見える、など、いわゆる、LASIKの後遺症で感じる症状や、眼精疲労の症状ととても似ているがために、自覚症状として気付きにくく、放置されやすいのです。
ですから、レーシック手術を受ける前に、自分がステロイドレスポンダー(ステロイドで眼圧が上がるような体質)であるか否かの確認をするということ、また、レーシック手術を受けた後、(ステロイド剤投与中の比較的初期に)一度は信用できる第三の病院に出向き、眼圧検査と視野検査をきっちりうけることを、おすすめします。
ステロイドレスポンダーで、レーシック施設で安易にステロイド剤を投与されていたとしても、緑内障になる(視野欠損が出来る)前に気付き投与を止めることができれば、失明することはありません。
どうか、きちんと管理されていないステロイド剤を、LASIK施設から渡されるままに、やみくもに点眼し続けてしまうことだけは、どうか、避けてください。