2010年12月07日 07:13 毎日新聞
東京都中央区の「銀座眼科」(09年4月閉鎖)で視力回復のためのレーシック手術を受けた患者が角膜炎に感染した事件で、警視庁捜査1課と築地署は近く、元院長(49)を業務上過失傷害容疑で取り調べる方針を固めた。容疑が固まり次第逮捕する。捜査1課は、元院長が医療器具を十分に滅菌しないまま手術するなどずさんな衛生管理が被害を招いたとみている。レーシック手術を巡って医療関係者が逮捕されるのは全国初という。 【山本太一、内橋寿明、小泉大士】
捜査関係者によると元院長は08年9月~09年1月、20~40代の患者数人にレーシック手術を行った際、手術器具の高圧蒸気滅菌器での滅菌処理を怠ったため、患者に角膜炎を発症させた疑いが持たれている。数人は視力も回復しなかった。
銀座眼科では一般的な費用の半額以下の約10万円で両目を手術していた。元院長は普段から、手術時にも帽子やマスク、手袋をしないことがあり、使い回しが禁止されている手術器具を再使用することもあったという。
銀座眼科を巡っては中央区保健所が09年2月、手術を受けた患者67人が角膜炎や結膜炎を発症していたと発表。保健所に連絡した被害者はその後75人に増えた。患者ら50人は同7月、元院長らに計1億3300万円の賠償を求めて東京地裁に提訴するとともに、一部は傷害容疑で築地署に告訴していた。10年2月にはさらに5人が提訴しており、請求額の合計は1億4800万円。弁護団は「被害者は100人を超える」と話している。
捜査1課は09年8月、元院長の自宅など数カ所を家宅捜索し、感染した経緯や衛生管理体制などを調べていた。
◇「視力回復せず」 相談多く
レーシック手術は目の表面にレーザーを照射して角膜の形を変え、近視を矯正する手術。日本では80年代後半に海外から導入され、00年に厚生省(現厚生労働省)が認可した。短時間の手術で視力が回復するとして急速に広がったが、保険は適用されず、トラブルも報告されている。
厚労省は保険を適用しない理由を「医療行為かどうかの議論があり、技術的な安全性が確立されていない」と説明する。
費用は医院によってまちまちだ。約10年前から計20万例以上の手術を手がけてきた都内のあるクリニックでは、開院当初は両目で約60万円だった手術費が、現在は20万~30万円程度だという。
クリニックの診療部長は「患者が増え、1人あたりの手術費用が下がった」と話す。
国民生活センターによると、レーシック手術に関する相談は04年度は4件だったが、08年度は19件に上り、09年度も13件あった。「目に痛みや違和感がある」「視力が回復せず、ものがダブッてみえる」などの相談が多いという。
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解説 (岡本隆博)
レーシックをしている医療関係者の人たちがこの記事を見たら、おそらく「感染症をひきおこすなんて、初歩的なミスであり、当院では考えられない」と言うでしょう。しかし、では、「貴院では、手術を受けた人の全員が満足しておられるのですか?」と問われたら、はたしてどれだけの人が即座に「もちろんそうです」と答えられるのだろうか。
この記事において、厚生労働者が述べた近視手術を保険適用にしない理由を書いてあるが、実際には、この他にも、本音としては、「近視手術のほとんどは、メガネやコンタクトで用がたりるのに、いわば本人の「快適さ」「便利さ」のために、さしせまった病気の治療ではないのに、あえて手術をするものであり、いわば美容外科に近い手術である。そういうものに大事な公金を使うことは無理です」ということもあるだろう。
そして、「医療行為かどうかの議論があり」というのは、どういうことかと言うと、医師法で定める「医行為」というのは、すでに判例により「医師が行わなければ危険性がある行為」であるという解釈が確立しているので、近視手術はもちろんそれに該当するから、少なくとも法的には、近視手術は医(療)行為であることは明白なのであるが、はたして健康保険を適用するにふさわしい医療行為であるかどうか、ということなのである。
なお、国民生活センターへの相談件数が、近視手術の受術者の人数の割に非常に少ないのは、近視手術の結果に不満を持つ人がたったこれだけしかいないというわけではなく、近視手術を受けて困ったことになっても、何か商品を買って不満があるというのではなく、一種の医療過誤問題であるから、そういうところへ相談をするのは場違いだろうと思う人が多いからであり、たとえ、そこに相談して手術料金を返してもらってもそれですむことではないので、そういう機関へは相談にいかないということだと、私は思う。