週刊文春(2012年11月15日号)
「レーシックを受けたせいで人生が狂ってしまいました。健康を失い、仕事も失ってしまいました。こんなことになるなんて誰も教えてくれなかった……」
こう訴えるのは吉田隆さん(仮名・29)。彼は四年前にレーシック手術を受けた後、長いあいだその後遺症に苦しんでいる。
メガネやコンタクトレンズがいらなくなるということで、一般人のみならずサッカー日本代表の本田圭佑選手やプロ野球の糸井嘉男選手(北海道日本ハム)なども施術を受け、高い人気を誇るレーシック手術。もちろん、手術が成功し、間違いなく過ごしているケースも多いが、この手術には大きなリスクもあるのだ。
たとえば今年七月、レーシック手術で感染症を起こし損害賠償請求を受けていた銀座眼科が、患者側計六十人に対して二億六千万円を支払うことで和解した。
「銀座眼科は手術器具の消毒を怠るなど杜撰な衛生管理のもと手術を行っており、患者は感染症や視力低下などの後遺症に苦しんでいた。元院長は業務上過失傷害罪で有罪判決を受けています」(全国紙社会部記者)
衛生管理以前の、より本質的な問題点も存在する。
「レーシック手術では、日の不調を訴える患者さんが一定数いる。酷い場合はドライアイや頭痛、自律神経が悪くなり、生活にも影響を及ぼす例もある。こうした後遺症に対して有効な治療方法はなく、患者達は行き場所を無くす『レーシック難民』となってしまうのです」(医療関係者)
電車の中で失神した
具体的な苦しみを前出の吉田さんが語る。
「手術後、光がギラギラ眩しく見えるようになり、視界全体がオレンジ色がかったような感じに見えるようになったのです。心臓がドキドキし、気持ちが悪くなり吐き気が続いた。調子が悪くなり、電車の中で失神したこともありました。当時、デパートの仕事をしていたのですがとても働けるような状態ではなく辞めることになってしまった」
再手術を繰り返し、病院を転々としたが有効な治療は見つけられなかった。「強度近視で眼鏡を手放せると思いレーシックをしたのですが、今は逆に遠視用眼鏡をかけています。後遺症の治療のための費用は百万円を超えています。今はお金がなくなってしまい、治療もできない。外に出るのが辛いので家に籠りニートのような生活をしています」(同前)
こうしたケースは決して特異な例ではない。例えばプロゴルファーのタイガー・ウッズは「レーシック手術後、視界の乱れや頭痛に悩まされている」(USA TODAY〇七年五月十五日)と報じられた。レーシック先進国の米国でも、深刻な問題として受け止められているのだ。「米国では保健社会福祉省に属するFDA(食品医薬品局)でレーシック手術の被害が多数報告されています。FDAは『リスクを引き受けられますか』、『あなたのキャリアが危うくなるかもしれません』と警告し、こうしたことを受け入れられない人はレーシック手術に不向きとしています」(医療ジャーナリスト)
日本眼科学会常務理事の筑波大学・大鹿哲郎教授はこう指摘する。「レーシック手術というのは角膜というレンズを削る手術です。レンズを傷つける以上、視力は良くなったとしても、大なり小なり『見え方の質』は悪くなるということを理解して下さい。しかも後遺症が出た場合、戻すことはできない。リスクがある以上、眼鏡、コンタクトレンズで不具合がない場合は、無理にレーシック手術を受ける必要はないと思います」
自由診療のもと行われるレーシック手術の後遺症は、全て自己責任とされているのが現状だ。厚生労働省は今一度、このリスクある手術の実態を検証すべきではないのか。