[ML談義] 眼科医師と連携して眼鏡士を国家資格に?

眼科医と連携の新しいシステム?

岡本
眼鏡新聞(2009.3.21)によれば、3.16に東京で開催された(社)日本眼鏡
技術者協会の「資格制度推進委員会」のあとの記者会見で、眼鏡士の国家資格化に関して、協会首脳は、概略次のことを述べたそうです。

1)名称独占でなく、業務独占でいく。
2)眼科医と眼鏡士の業務範囲を明確にしておく。
3)眼科医と連携して新しいシステムを構築する。

向こう2年をめどにこういうふうに持っていきたいのだそうですが、これについて、私見を述べます。

まず、1)について述べます。

これは、業務独占という強い国家資格でなければ、眼鏡学校が、今後ますます学生が来なくなるので、眼鏡学校の存続のためには、名称独占でなく業務独占にしたい、ということや、業務独占でないと、低レベルの業者がいつまでたってもなくならない、ということでしょう。

しかし、ここで私が疑問に思うのは、その場合の「業務独占」が、つぎのどちらなのか、ということです。

A)いわゆる検眼業務に対してのみの独占なのか、
B)検眼だけでなく眼鏡の加工販売まで含めた業務独占なのか、

まず、A)であれば、無資格者しかいない店でも、メガネは売れます。ただし他で測定処方された処方箋がいるわけですが、それだけにひとつのメガネを売る場合
の手間暇が減るので、そういう店では安売りに拍車がかかりそうです。
それがユーザーにとってよいことかどうかは一概に言えません。

検眼能力のない人間が、処方箋はあっても、メガネの加工調整にどこまでの能力
を発揮するのか、という点に疑問が残るからです。

たとえば、いま認定眼鏡士ではない人間に試験をして、それに合格しない人は、
国家資格の眼鏡士にはなれない、ということにしたとしても、その場合には、メガネ
を加工販売するのはよいが検眼はだめ、ということなので、一応商売は続けられる。

ゆえに、いま認定眼鏡士になっていない人には、試験で国家資格保持になるか
どうかのふるいわけをする、ということも可能でしょう。

次に、A)ではなくてB)であれば、営業権的な問題もあるので、試験で篩い落とす
ということはまず無理で、出発点ではいまの認定眼鏡士でない人でも*年以上の
経験があれば、国家資格の眼鏡士、というようなことにせざるを得ません。

それでは、向こう何十年かの間は、国家資格によるメガネの技術レベルの向上と
いうのは、期待しにくいでしょう。

また、A)になった場合、どうなるか、と考えますと、おそらく眼鏡士による検眼は、
それを独立させた業務として、その料金をもらうことになり、そうなると当然ながら、
自店でその人がメガネを買うかどうかということとは別に、検査結果の処方箋を
発行せざるを得ません。

それを持って、眼鏡士とは関係のない安売り店や通販でメガネを買う人もいま以上
に増えそうです。

「お宅の店は検眼料はいくらですか?」などという問い合わせも来るでしょう。

また、その処方箋のとおりに他店がメガネを作って、それでうまく見えない場合の
責任問題というやっかいなことの出てきます。

そして、眼鏡士のいない眼鏡店(通販も含む)は、眼科や他店での処方箋を持ってきてもらいたいために、いま以上に安売り宣伝を強化するでしょう。
そして、メガネの通販は、ますます盛んになると思います。

B)になった場合には、当分は、技術レベルの高い店も低い店も、みな国家資格の人がいる店、ということになり、粗製乱造的な安売り店も従来どおりやっていけるでしょう。
ただ、新たに国家資格者となりたい人には試験を課すということで、長い年月を経たら、低レベルの技術は少しづつ減っていくと思います。

ただ、制度スタート時に国家資格を持っていた人も年月を経てだんだんに減っていき、新たに国家資格者になるのにはちゃんとした試験があるということになると、眼鏡士全体の人数も減っていき、企業的なメガネ店では国家資格を持つ人の給料を上げざるをえず、そういう店では安売りは難しくなるかもしれませんが、逆に、そういう店は「君たちの給料をしっかりを稼いでもらわないと」ということで、これまで以上に単価アップ作戦が強化されるかもしれません。

また、A)B)のどちらにしても、業務独占の国家資格関連の業務においては技術内容について独自の長所を宣伝するということは難しくなるでしょう。

次に、2)と3)に関連して、述べます。

これまで、眼鏡士の国家資格化が何度もうまくいかなかったのは、その都度眼科医会からの反対があったからに相違有りません。

それで、今度は眼科医会になんとかこれを認めてもらいたいということで、眼科に何らかのメリットを呈上しよう、ということが、ここにいう「眼科医との連携」であり、「業務範囲」なのでしょう。

すなわち、眼鏡士法の条文に「眼鏡士は眼科医の発行した眼鏡処方箋に従って眼鏡を調製する」という文言が入るのは必定です。
(これまでの眼鏡士法案にも、その文言が入っていました)

 

眼科が眼鏡士を管理?

岡本
しかし、「連携」は、それだけではありません。
民間資格である補聴器技能士の資格を取るためには、その技能士を管理する耳鼻科を設定する必要があると聞いていますが、この眼鏡士と眼科医との「連携」というのも、もしかしたら、個々の眼鏡士を「管理」する眼科医を決める、ということなのかもしれません。

そうなると、おのずと、その眼鏡士が、あるお客さんの検眼をしていて何らかの疑問を感じたら、その管理医師に紹介することになるでしょうから、医師としては、自院への患者さんが増えることになりますから、そういう制度は歓迎すべき制度でしょう。

そして、ある医師が発行した眼鏡処方箋は、その管理下にある眼鏡店へ患者さんが持って行くとは限りませんが、メガネ店がある眼科の処方箋をもらったら、眼鏡士は、それを患者さんとの相談で変えて作るということをすれば、資格取り消しになるかもしれません。

だから国家資格の眼鏡士は眼科の処方箋に逆らわないでおけば自分の身分は安泰ですが、眼科処方箋のとおりにメガネを作ってうまく見えなければ、困るのはユーザーです。

それで眼科での再処方がなされた場合に、では誰がレンズ代の負担をするのでしょうか。

また、特定の眼科と眼鏡技術者との「連携」はないとしても、国家資格の眼鏡士となれば、薬剤師と同様に、自分の判断で処方箋の内容を変えて、薬なりメガネなりをお客さんに提供するということは、資格剥奪の元になりかねず、絶対と言ってよいほど無理だということになります。

それについては、くわしくは

「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」http://ggm.jp/ugs/

をごらんください。

もちろん、処方箋の内容に疑問を感じたら、医師に連絡をすればよいのですが、いつでも連絡がつくわけでもないし、医師に対して何か疑問点を問いただすことがたびたびになると、医師から「うるさいヤツだな」と思われるおそれがあるので、言いにくくなり、そうなると、おかしいなと思っても処方箋のまま作っておくしかしかたがないということになります。

現に医師と薬剤師の関係がそういう関係になっていて、薬剤師はある薬の処方に疑問を感じたとしても、よほどのことでない限り、医師に、それでいいのかをタダしたりはしないそうです。

それについては、日本眼鏡技術研究会雑誌の77号の「薬剤師と眼鏡士を比べてみると」という記事に書きましたので、お読みになったかたも多いと思います。

そして、いま、法的な根拠がないからこそ、場合によっては眼鏡技術者と顧客との相談により、眼科発行の処方箋はあくまで参考値として眼鏡店での検査による眼鏡調製を行なっても、それがあとで眼科に判明しても、結果が悪くなければ眼科も文句は言えないのですが、もし、国家資格の眼鏡士の法律の中で「眼科の発行する眼鏡処方箋ウンヌン」の文言が入ると、眼科の眼鏡処方箋に法的根拠ができてしまうので、いまときどきなされているような、「処方箋はあくまで参考値で」というようなことができなくなってしまうでしょう。

そうなることは、ユーザーにとって、メリットよりもデメリットの方が大きいと私は思います。

とにかく、国家資格制度に伴う「眼科医との連携」がなされたとして、それが患者さん(お客さん)のためになることもあるのでしょうが、逆にためにならないことも出てきて、我々の自主独立性が損なわれ、事なかれ主義に流れていく傾向は、いまよりも強くなるでしょう。

ただ、その「連携」が、わたしが以前から主張している「眼科は眼科でしかできない眼鏡処方以外は、眼鏡処方から手を引く」ということを含むので有れば、それはユーザーにとって良いことなので、私は大賛成ですが、そうなる可能性は限りなくゼロに近いと思います。

そして、「眼鏡士は眼科医師の発行する眼鏡処方箋に従って眼鏡を調製する」という文言が、法律の条文の中に入るのならば、もしその眼鏡でうまくいかなくて、短時日のうちに再処方がなされた場合に、そのレンズの代金は誰の負担になるのかということも、定めておいてほしいものです。

 

補聴器とは事情が違う

岡本 補聴器の場合には、耳穴の型を取るときに、それがうまくはずれない場合などには、
耳鼻科へお客さんを連れていって「何とかしてください」とお願いをせざるを得ないこともあって、管理耳鼻科の設定は、けっこう大事なのだそうです。

しかし、メガネ店では、そんな緊急性を要するようなことはほとんどないし、特定の眼科から管理をされないといけないようなこともないはずです。

また、業務独占という強い資格の裏には、それに相応する重い責任や義務が課されてきます。

それは、おそらく

・検査や調製の記録を5年以上残す。
・眼科の処方箋には逆らわない。
・病気の可能性を感じたら必ず医師への受診をすすめる。

ということでしょう。

それで、もしも、検眼して特におかしいと思わなかった人が、あとで眼科へ行ってなんらかの治療を必要とする疾病があると診断された場合にその医師が「このような状態の人なのに、眼科受診をすすめなかったのはおかしい。その眼鏡士が国家資格を持っててよいのか」となどと言った場合には、眼鏡士は困ります。

ゆえに、これまで以上に、少しでも疑問を感じたら眼科への受診をすすめるようになります。

国家資格を持つ眼鏡士がすすめるのですから、お客さんは眼科へいくでしょう。
眼鏡士の勧めで眼科受診をする人は、おそらく従来の何倍にもなるでしょう。
眼科でのその人に対する診察結果がどうであれ、眼科の収入が増えることはたしかです。

また、資格保持者においては、これを怠ると資格剥奪のおそれがあることや、それを怠ると確実にお客さんが減る、ということ、あるいは、それをするとすぐに営業成績が良くなるということなどには真剣に取り組みますが、その反面、そうでない業務、すなわち、多少不行き届きなことがあってもそれによって命取りになったり、それで売り上げが下がったりするわけではない業務にはさほど真剣に取り組んだり研究するわけでもない、というのは世の常です。

現に、アメリカのオプメトリストの多くは、最善の度数を処方することよりも、病気の見逃しをしないことに、気がいっているようです。

我が国の眼鏡士がその二の舞を舞って、病気の見逃しをしないことに気がいってしまって、本来の眼鏡処方の時には力が抜けるようになってしまう、ということにはならないような制度にすることが重要です

以前に私は、ある眼鏡学校のかたから、下記のことを聞きました。
「高校の就学指導の先生のところへ、うちの学校への生徒の入学をお勧めにいくと、どこでも必ず『おたくの専門学校を卒業すると国家資格を取れるのですか?』と聞かれます。

眼鏡学校は国家資格が関係ないので、これまでに私はどれだけくやしい思いをしてきたことか……」

協会首脳が下記のような発想で、ことを急いでおられるのでなければ幸いです。

いま、眼鏡学校は学生が集まらなくて困っている。
なんとかしなくてはいけない。

そのためには、国家資格、しかも、業務独占という強い資格が必要だ。
眼鏡士の国家資格化には眼科医会の理解が必要。そのためには、それぞれの眼鏡士に管理医師を設定して、その医師からいろいろ指導をしてもらい、お客さんを極力その医師のところへ紹介するようにしたらよい。

それなら医師も納得するだろう。

いま、眼鏡士の国家資格制度がなくても、個々のメガネ店はさほど困っていません

そんなことよりも、国家資格制度ができてもできなくても、とにかくこの不景気を何とかしてほしいと思っているのです。

ユーザーも、特に困っている様子がなく、もしも、国家資格制度になって、検眼に別にお金がかかるのなら、そんな制度はいらないと言うでしょう。
眼科医師も、まあ、困っていません。

処方箋を発行して「良いメガネ屋さんを紹介してください」と言われたら、認定眼鏡士のHPを見てください。

と言えばよいのですから。

国家資格制度がなくて、いま一番困っているのは結局、眼鏡学校だけなのです。
いま彼らにとっては、それは自らの死活問題だからです。

最後に私は言っておきます。

私は、眼鏡士と眼科医師が、ヘンな「連携」を組むことになることには反対です。

特に、個々の眼鏡士を管理する眼科医を設定するということには、絶対に反対です。

私は、眼科医師に管理されなくとも、ちゃんとメガネ屋としてやっていけていますし、管理されると、逆にユーザーにとってはマイナスではないかとさえ思うのです。

なお、私は「眼鏡士を国家資格にするのなら名称独占で」と言っていたのですが、

http://www.optnet.org/namanokoe/kokkasikaku.html

この眼鏡新聞の記事では、「今後はそういうゆるい国家資格は無理である」ということを協会首脳が語ったそうです。それが本当であるなら、眼鏡士の国家資格化は断念して、いまの認定眼鏡士をもっと積極的に打ち出していくというのがベターであると思います。

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この続きは「 こ ち ら 」をご覧ください。

投稿日:2020年10月18日 更新日:

執筆者:

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