認定眼鏡士の通販についての2つの疑問

岡本 隆博

(公社)日本眼鏡技術者協会は、その公式HPにおいて傘下の認定眼鏡士がメガネの通販をすることを禁じている。

協会のHPには、下記のように書いてある。(2014.2.14現在)

(引用はじめ)
平成20年10月22日開催の「眼鏡技術者・認定資格制定委員会」において『認定眼鏡士が、眼鏡の通信販売・ネット販売を行っていることが判明した場合、本人に警告書を送付して、なお、改善されない場合は資格を取り消す事にする。』ことが取り決められました。認定眼鏡士の皆様は「眼鏡の通信販売・ネット販売」を行わないよう注意下さい。

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消費者のみなさまは、WEBや新聞広告で眼鏡を通信販売する業者を数多くご覧になっていることと思います。
眼鏡販売は、測定・フィッティング・アフターフォローなどお客様と対面することで初めて可能な技術行為を伴う販売です。ところが通信という販売手段では、対面による技術行為は不可能で、必要な眼鏡調整技術を完遂しておりません。
そのような業者がいくら眼鏡販売と表現していても、良識ある眼鏡技術者の行為とは言えません。なぜなら眼鏡は、完成された状態でお客様のお顔に正しくフィットされて、初めて機能を発揮するものだからです。
またこのような業者の中には「フィッティング等不具合であれば、お近くの眼鏡店で直してもらってください。おそらく無料で直してくれます」などと標榜するところもありますが、自店の商品について、事後のフィッティングや不具合のアフターフォローの責任を一方的に他の販売店に転嫁することは、眼鏡技術者に課せられた販売者としての責任を放棄する行為で、商倫理として許されるものではありません。
消費者のみなさまは以上のことにご理解頂き、良識と責任を持った認定眼鏡士のいる眼鏡取扱い店を選んで頂きますよう、お願い致します。
(引用おわり)

これについて、私が疑問に思っていることを書いてみたい。


「眼鏡の通販」の内容の詳細は?

まず、その「眼鏡の通販」の「眼鏡」とは何を指すのかが、いまひとつ明確ではない

すなわち、下記のすべての行為を禁じているのか、それとも、どれかはOKなのか、ということが分からないのである。

1)サングラス(度なし)を通販すること
2)眼鏡の矯正枠を通販すること
3)眼鏡のレンズをアンカットのままで通販をすること
4)自店の新しい枠に、自店の新しいレンズを玉入れ加工して通販すること
5)自店の新しい枠に、ユーザーが使用してきた枠から抜いたレンズを加工して
入れて販売すること
6)ユーザーの従来使用枠に、新しいレンズを加工して入れて通販すること
7)ユーザーから送られてきた枠に、送られてきたアンカットレンズを加工して入れて加工賃を得ること。

このそれぞれについて、検討してみる。

まず、1)は、フィッティングができないし、レンズについての物理光学的なアドバイスもできないからダメ、と言うことはできる。
しかし、その二つとも無い状態で販売している雑貨店が野放し状態であることを考えると、この通販を禁じるというのも、どうかなとも思う。
しかし、少なくとも普通の眼鏡技術者でも、これをやるのは恥ずかしいことであるし、ましてや、認定眼鏡士がこれをするべきではない、と私は思う。

次に、2)は、コンサルティングセールスもなく、フィッティングもない状態での矯正枠のユーザーへの販売ということだから、非眼鏡士でもよろしくないし、眼鏡士であれば、
なおのこと良くないといえる。

3)については、ユーザーが指定した商品を仕入れて、そのまま販売をするだけなのでその商売自体には、格別の専門知識も技術もいらないから、別に通販でこれを行なうのも、技術的な問題も商道徳的な問題もなさそうである。

しかし、こういうやりかだと、たとえば、レンズを入れることを依頼される業者は、安い工賃で、もし加工で失敗したらその弁償をしなければならないということであるから、普通のメガネ店は、そんな依頼は引き受けたくないであろう。

しかし、そこは割り切って、リスク込みの料金でこういうことを専門にする業者がいるのであれば、話はまた別で、それはユーザーと業者の需要供給の関係で成り立つ商売となっていくであろう。

であれば、いまの時点で、この3)を禁じる理由は弱いと思う。

ただし、そういう加工も通販で、となれば、レンズの心取り設計は十分なことができない
だろうから、普通のメガネ店での玉入れ加工よりも、精度は多少落ちると思うが、ユーザーも、そこまで承知して通販でこの種の加工をしてもらうのなら、ユーザー自己責任ということでかまわないのではないか。

現にこういう方法でのレンズ販売も、通販でちらほら見かけるが、ユーザーはおそらく、
そういう加工のみを引き受ける業者を確保してからアンカットのレンズのみの注文をするのであろう。

ただし、この「アンカットレンズでの販売」は、いわばまったくの素人でもできる方法だから、認定眼鏡士がこれをやるのは、情けない。
あんた、いったい、これまで何を勉強してきたの?
儲けのためだけに、こんな商売までするなんて、恥ずかしくないの?
という感じだから、これを認定眼鏡士に禁じることは、妥当であると私は思う。

4)これは誰がやる場合でも望ましいものではない。
認定眼鏡士がやるのは、なおのこと、イケマセン!

5)いまこれをやっている通販業者があるのかないのかは知らないが、これも、光学中心位置の確認などができないし、枠のフィッティングもできない方法だから、認定眼鏡士がこれをするのはいけないと言える。

6)これは、その時点で掛け心地などの点で問題がないとユーザーが言うのであれば、フィッティングウンヌンは関係がないといえる。
玉入れ加工ができる人なら結果はまあまあの出来になるのであろうが、しかし、レンズ
の心取り設計は正確にはできないから、より良いメガネを提供することを目指すべき認定眼鏡士がやってよいことだとは言いがたいと思う。

7)これも6)と同じ理由で、認定眼鏡士がすべきことではないだろう。

以上をまとめると、1)〜7)の中では、眼鏡技術者でなければ、まあよいかな、と思えることや、あるいは、眼鏡技術者でも、これくらいならまあよいかな、と思えることはあるにしても、1)〜7)のやりかたのどれもが、普通の商売本位のメガネ屋さんも、より高い倫理性(技術者としての見識や良心)を求められるべき存在である「認定眼鏡士」がするべきではない行為であると言えようから、私は、これらのすべてのやりかたを、協会
は認定眼鏡士に対して禁じるべきであり、こういう具体的な細かいことまで、HPに書いておくべきだと思う。

そうでないと、自分は認定眼鏡士だけど、度なしのサングラスなら通販してもいいのだろう、とか、アンカットレンズを売るだけなら、そこに技術は関係ないからいいだろう、とかいうような、我田引水の行為をする人が出てくるかもしれないと私は危惧するのである。

本人でなければよいのか?

認定眼鏡士の通販を禁じる、ということについてはもうひとつの問題が残っている。

たとえば、わかりやすいのは、メガネの通販サイトにおいてその通販のサイトの中の、特定商取引に関する法律』に基づく表示、の中の、責任者(以下、これを単に「責任者」と書く)の名前が、認定眼鏡士本人の名前になっている場合である

しかし、いま、認定眼鏡士のほとんどは、協会によりメガネの通販が禁じられていることを知っているのだから、よほど不用心な人でなければ、そういう表示でメガネの通販をすることはまずないと思われる。

そうすると、以下のような形態が多くなってくるだろう。

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1)中小規模店で、「責任者」の名前を、同じ店の中の非眼鏡士の名前としたり、あるいは、実際にはその店で就業をしていない家族の名前を使ったりする。

2)ある程度以上の規模のメガネ店(チェーン店を含む)で、非眼鏡士である経営者や重役の一人を「責任者」として、眼鏡士はその企業に複数おり、そのほとんどは、経営者とは血縁関係が無い被雇用者である。

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まず、このうちの1)については、以前に実際にあった例では、リアル店舗のHPとは別に、別の店名で通販サイトを作り、その店の非眼鏡士を通販の「責任者」としていた。
これは普通は露見しないのだが、あのときには、ネット検索でうまく見つかって、それを私は当該店に公開質問したし、協会にも知らせた。

これは、外形的には認定眼鏡士自身は通販をしていないことになるし、実際に眼鏡士が通販にかかわっているのかどうかは不明であり、眼鏡士は通販とは無縁であるという例もあるのかもしれない。

そして、いかに公益社団法人である協会といえども少なくとも違法性はないことについて、実態を現地調査するというのは無理であろう。
では「疑わしきは無罪とする」のがよいのか、それとも、こういう網の目のがれのような
ことは許さない、として、その店の認定眼鏡士の資格を剥奪するのがよいのか、どちらなのであろうか。

答を言うと、断じて許すべきではない、と私は思う。
なぜなら「疑わしきは無罪とする」というのは刑事裁判での原則であり、いま、眼鏡士の通販ということで問題にしているのは、その「違法性」ではなく「技術者倫理性」なのであるから、「疑わしきは無罪」というのは適用されないからである

その店が通販をしているということを、その店の眼鏡士が知らないはずは無く、というか、実は、名義上の責任者は非眼鏡士であるが、首謀者は眼鏡士、ということもあろう。

首謀者が眼鏡士、ということならもちろんダメだし、仮にその店の眼鏡士が首謀者でないとしても、その通販をやめさせないという点に、その眼鏡士に責任が無いとはいえない。

だから協会は、この1)のような店を見つけたら、その眼鏡士に対して、あなたの店の通販をやめるか、あるいは、自分が眼鏡士をやめるか、どちらを選択しますか?と言うべきなのである。

次に2)の場合はどうか。
この場合も、その企業の眼鏡士らが、通販にどの程度かかわっているのかは不明である。
彼らは通販にはまったくノータッチであるのかもしれないし、一部が深くかかわっているのかもしれない。
しかし、考えてみると、メガネの通販をするような経営者は、いわば、商売第一の人であり、ユーザーに本当に快適な眼鏡を提供しようとする意思がうかがえない人物である。

経営者の経営理念や経営方針、経営戦略などは、その企業の末端にまで影響を及ぼす

メガネを通販する経営者のもとで、その企業の眼鏡士は、実際にユーザー本位の仕事ができるのだろうか。
個々のユーザーに対して、売り手が売りたい商品、ではなく、ユーザーにとって有益な商品を薦めるということを貫けるのであろうか。

そう考えると、この2)の場合も、その経営者に事情を説明し、通販の中止を進言してみて、それが聞き入れられなければ、その企業の認定眼鏡士の全員を除名すべきだと、私は考えるのである。

(2014.2.14)

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《参考記事》

http://eyetopia.biz/tuhan/

上記のサイトには、この記事に関連するメガネ通販について述べた記事が
いろいろあります。

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投稿日:2020年10月16日 更新日:

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