黒田会長との往復書簡
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本日、福井県眼鏡協会の黒田会長から、当方にFAXにて下記の主旨のコメントをいただきました。(2008.12.19)
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当協会主催の「理想の匠」のサイトにおいてフレームの通販をしていることを、ご指摘により初めて知り、ビックリしました。
早速協会役員で協議し、あの通販はやめることにしました。
我々は産地の商品をあくまでも、卸・小売の皆様を通じて販売していく所存です。
東京のアンテナショップは、あくまでも、情報発信と収集の手段です。
ご理解を賜りますようお願いいたします。
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岡本
「理想の匠」のサイトには、まだ(2008.12.19午後4時現在)通販関連の記事が削除されずに残っていますが、これはそのうちに削除されるでしょう。
そこで私は、おりかえし下記の文面のFAXを送りました。
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FAXを拝見いたしました。
早速通販の中止を決めていただきましたことはたいへんよいことだと思います。
それで、私どものホームページにも書きましたが、次の2つの件については、どのように対処をなさるおつもりでしょうか。
(1)アンテナショップで販売した枠のフィッティングやレンズ入れ加工についてメーカーへ個別に通知するシステムについては、どのような方法を実施しておられるのでしょうか。
それをきちんともれなく行なうことに、このアンテナショップの最大の意義があると思いますが。
(2)枠のみ販売した場合に、その枠にレンズを入れてくれる店に対する意見を求めるなどの書類を付けるというご意向はないのでしょうか。
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すると、早くも翌日の朝に下記のメールが届いていました。
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日本眼鏡技術研究会 岡本隆博様 お早うございます。
GG291に於ける販売はまだまだぼちぼちといったところです。
販売の状況については出店者には日報として報告をしております。
又メガネ枠のフィッテングやレンズ入れ加工上の問題など、顧客の意見やお店の担当者の意見を個別にフレーム製造メーカーに随時お知らせを致しております。
又、月毎にお客様の意見や販売されたフレームの色や玉型種類などを集計し協会会員に配信し、各メーカーの商品つくりに活かしていけるようにして参ります。
私共と致しましては、お客様のそうした情報を直接頂く事により、更には其々のメーカーが自社の独自性を発揮しテストマーケッティングをすることにより、より小売店の皆様にお喜びいただける商品開発に活かしていくことを目的と致しているところであります。
そしてそうした商品を一同に揃え、福井産地のショウルームとして、何時でも福井の安全で安心をお届けできる商品をご紹介し、小売店の皆様に何時でもご覧いただけるようにするものであります。
いわば小売り店様のための小売店を目指し、福井の商品やサービス、更にはシステムなどをご紹介して参りたいと考えているところであります。
そして春と秋には、ショウルーム及びIOFTの会場にて合同の新作発表会や受注会なども今後企画して参る予定であります。
又2番目のご質問ですが、原則として枠のみで消費者の皆様に販売する事はないものと考えておりますが、どうしてもといった場合にはご指摘のような対処も必要になってくるのかもしれません。充分に配慮いたして参りたいと存じます。
我々としてはこうした経験も初めてのことであり、現状試行錯誤しながら少しでも小売り店様や卸の皆様にお役に立てるよう、そして産地のモノ作りに活かしていけるよう今後とも知恵を絞り頑張って参る所存でございます。
宜しくご指導とご鞭撻をいただけますようお願いを申し上げます。
取り急ぎご連絡申し上げます。
黒田 一郎
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それで私はすぐに下記のメールを返信しました。
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日本眼鏡技術研究会の岡本です。
さっそくお返事をいただきまして、まことにありがとうございました。
南青山の店は、単に個別商品の人気の動向だけでなく、フィッティングや加工における枠入れなどの技術的な点においてもその情報を収集するという目的をはたすために日報など、きちんとしたことをしておられるとのことで、安心いたしました。
ただ、枠のみの販売の場合に、フィッティングをきちんとした状態でお渡しすることは当然なのですが、(ほとんどのメガネ店ではそれをさぼっていますが)それ以外に、私が提案いたしましたような、メガネ店に対する依頼書を予め作っておかれて、その枠を持参されてレンズ入れを注文されたメガネ店が、下記のような理由でレンズ入れを断ることがないような配慮をしていただくようにお願いいたします。
1)素材が何であるか、よくわからないので調整作業が怖い。
2)構造的に珍しいものなので、仕上げのフィッティングやレンズの枠入れ加工に
困りそう。
3)もしも、破損や傷つきなどとなった場合に、責任を持てない。
(同じもので弁償するにも、仕入れルートがわからない)
4)特殊なパーツが使われているが、その交換や補充などができない。
ちなみに、上記のようなことがありますので、当店では他店購入による新品枠のお持ち込み品に対するレンズの枠入れはお断りいたしております。
もう、アンテナショップは営業が始まっています。
「上京してきてこのアンテナショップで見たこの枠がほしいが、レンズは地元の店で入れるので枠のみ買いたい」というお客さまが来られてから、あわてて依頼書を作っているようではいけません。
予め、必要事項を網羅して、ところどころ書き入れればすむだけの「メガネ店への依頼書」の作製に、これからただちにとりかかっていただけますでしょうか。(質問1)
もう一つおたずねします。 私どもでは、問屋さんに見せてもらう枠のうち、フィッティングやレンズ加工に難がありそうなものは予め排除して店の品揃えとしています。
たとえば、「これは前傾角が浅すぎるし、しかも、前傾角の調節も、できそうにない」とか「この腕はバネ性が柔らかすぎて、しかも調整がきかないこれでは誰がかけてもずり落ちやすくなる」などという枠であれば仕入れません。
そういうものを買って掛けるお客さまに迷惑がかかるからです。
貴アンテナショップの商品は、ある意味で意欲的で斬新なスタイルや変わった構造ものも多いと思いますが、そういうものほど、従来の経験則(智恵)を活かせないものが多くなり、結果としてフィッティングやレンズ加工の問題が生じ、お客さまに不満を与えることになるという傾向が見られます。
個々の枠をアンテナショップに入れる時点で、ショップの眼鏡技術者に意見を求めることはもちろんなさっていると思いますが、その場合に、眼鏡技術者が技術的な理由から、調製販売に難色を示し、この枠はフィッティングできないとか、フィティングしたくないとか、あるいはレンズ枠入れ加工はしたくないとか言う枠もアンテナショップに展示されるのでしょうか。
下記の選択肢からお選びいただければ幸いです。(質問2)
そういう枠は
1)店からは排除する。
2)店に並べるが、販売はしないようにする。
3)店に並べて、場合によっては販売もする。
以上、公益法人の会長様にお尋ねいたします。
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黒田
色々とご指導頂き有難うございます。ご質問の件につき私の私見をお伝えします。
と申しますのも、協会としてはあくまで合議の上、判断をして参らなければいけませんのでそうした手続きを通しておりません事を了承ください。
まず第一番目のご質問ですが原則としては、枠だけの販売は考えておりませんがご指摘のようなケースもあろうかと思いますので、ご指摘のような体制をとるべきかと思います。
第二番目のご質問ですがフイッティングの困難、出来ないといった商品はお店より出来る限り排除、もしくは少なくしていかなければいけないと思います。
それよりも実際に調整をする場合にどのような事が求められるのか、消費者の人に何が喜ばれ、どのような商品開発をしていくべきなのか、などを我々が実施勉強し商品開発に活かすためのショップであり、私見ではありますが段階的に改善を図っていくべきことであろうかと考えます。
以上ご報告させていただきます。
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岡本 日本眼鏡技術研究会の岡本です。
さっそくのお返事を有り難うございました。
二つの質問に対するご返答は、少し逸らしたお答えになっています。
ゆえに、当方としては、質問1に対しましては「そういう依頼書を作る予定はいまのところはありません」というお答えであると解釈させていただきます。
もし、そうでなく、依頼書は作るつもり、ということでしたら、その旨をおっしゃっていただき、依頼書ができたら、その文面をご開陳いただければ幸いです。
そうすればその依頼書は全国のメガネ店の模範とするところのものになると思いますし、そこにこそ、公益法人の行なう事業としての価値が生まれるものだと思います。
次に、質問2に対しましては、貴殿のお答えは「メーカーから、これをショップにならべてほしいと言ってきたものを、技術的な理由でメーカーに突き返すということはできないので、ひとまずショップに並べます」というご返答であり、ということは、すなわち「そういう『困った枠』で、ショップの技術者が困ったり、ユーザーが困ったりすることよりも、メーカー各社が気を悪くしないことの方を優先します」ということであると解釈させていただきます。
もし、そうでないとおっしゃるのであれば、また、その旨をお知らせくださいますれば幸いでございます。
なお、この件に関して私の意見を書きますと、産地で枠を設計している人はフィッティングの実技に習熟した人がほとんどいません。
レンズの枠入れについても同様です。
もっとも、フィッティングにおいては、メガネ屋でも、上手な人は少ないのが現状ですので、いま、産地のデザイナーにそれを求めるのは無理かもしれませんが、しかし、デザイナーの設計が悪いと多くの眼鏡技術者やユーザーを困らせる元になるのです。
とにかく、そういう理由があるので、いつまでたっても、フィッティングができない枠、
困難な枠、レンズの枠入れが困難な枠が後をたたないのです。
本当に良い枠を市場に出したいのであれば、スタイルだけでなく、設計の良い枠を作らないといけません。
そのためには、枠のデザインをする人には、フィッティング(理論と実技)とレンズ加工を十分に勉強をしていただきたいです。
それなくして、産地直営のアンテナショップを設けても、いつまでたっても、メガネ店でフィッティングやレンズ加工をする段階で困る枠はなくなりません。
もっとも、それでもかまわない、ということでしたら、産地のデザイナーにしてもらう勉強はいまのままでよいと思います。
しかし、このアンテナショップにおけるフィッティングや枠入れ担当の技術者に意見を存分に言わせて、それをもれなくメーカーに伝えて、メーカーが真摯にその声を聞いて以後の改良に努力をするのであれば、フィッティングや枠入れ加工で問題がある枠は、今後、少しずつでも減っていくと思います。
そのためにはアンテナショップの技術者を十分に尊重し、言いたいことは遠慮せずに言わせ、それを当該商品のメーカーに漏らさず伝えるようにしないとだめです。
それをすれば、少なくともTHA291関連のメーカーによる国産枠の設計が、今後より良いものになっていくことも、あり得ないことではないと思いますし、そうなることを心から期待しています。
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黒田
お早うございます。
色々とご指導ご指摘を賜り有難うございます。
ご意見を参考にさせていただきながら、今後共に産地のメガネ枠つくりの改善に少しでも役立て、小売り店様や消費者の皆様に少しでも喜んでいただける商品つくりに励んで参る所存であります。
今後共によろしくご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。
取り急ぎお礼とご返事まで。 (2008.12.22)
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岡本
お返事を有り難うございました。
もう一つ述べておきますと、仕入れの時点では分からずに仕入れてしまって、フィッティングやレンズ枠入れ加工をしてみて初めてその枠の欠点がわかる、ということが往々にしてあります。
その場合には、もちろんリピート注文をしませんが、面倒臭いので、我々は普通はその欠点を問屋やメーカーに逐一伝えるということはしません。
その欠点がよほどのものである場合にはメーカーに直接伝えることもありますが、めったにそこまではしません。
問屋の人が来店したときに、そのことを言ってみても、問屋の人も面倒なので(彼らの頭の中は「今月の売上げ数字」で一杯でしょう)メーカーに伝えることも少ないでしょう。
ですから、これまで、個々の枠の欠点をメーカーの人が知る機会がほとんどなかったのです。
今回のアンテナショップは、その意味で大変有意義なものだと思います。
(単に個々の商品の人気の具合を知るのならば、直営店を持たなくても売れ行きの数字を見ればわかりますからね)
それで、アンテナショップの技術者が、実際にフィッティングやレンズ枠入れをしてみて、こりゃいかんな、と思ったものでも、それが売れたからということで、また追加の補充入荷があり、それをショップの技術者は拒否できない、というのでは、多くの量販チェーンの品揃えと同じことになってしまいます。
ですので、実際にフィッティングや加工をした人間が、欠点を指摘した枠については、それをメーカーに伝えるだけでなく、次にまたショップへ補充で送ることはしないということにしていただくように、お願いをしておきます。
そうでないと、ショップの技術者はやる気がなくなってくると思います。
(2008.12.22)
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黒田
私共、福井産地のメーカーは小売りの現場から遠く離れ、充分な消費者の声を聞く努力も怠ってきたように思います。
ご指摘頂きました様な事を真摯に受け止め、小売りの皆様や消費者の皆様に本当に受け入れられる産地を目指して参らなければ、コストでは中国に、ブランドではイタリアなどに遅れを取り、産地は消滅してしまいます。
産地が生き残って参りますためにも、市場の真の声をしっかりと受け止め市場と直結して、かゆいところに手が届くような産地を目指して参らなければと思っております。
そしてそのことがメガネ業界全体にとっても、また大きな意味を持ってくるであろうと思います。そうした自負と責任感を持って取り組んで参りますので、今後共によろしくご指導のほどお願い申し上げます。有難うございました。
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岡本
さっそくのお返事を有り難うございました。
日本のメガネ枠は、品質は世界で第一級の物だと言いますが、それは素材、仕上げ、組立、に関してです。
スタイリングについての評価は置くとして、日本製品の課題は、設計です。
たとえば、クリングスのロー付け位置において、何も考えずに(分からずに)適当な位置につけてある物が非常に多いです。
(私がプロデュースする枠においては、その位置は個々の枠の鼻幅や用途、装用者の年齢層などを勘案して厳密に考えて決めています)
また、腕によけいなバネ性を持たせたがために、どうフィッティングしてもずり落ちやすい枠、などというのもあります。
あるいは、もみあげ部を横から抑えるような形状の腕になっていて窮屈感を訴えられても、容易には修正できないものもあります。
また、モダンが太すぎて調整が困難で、装用者の耳のうしろの形状に合わせたくとも合わせられないものもあります。
累進レンズを使う年代層向けのものなのに前傾角がほとんどついていないのもあります。
こういうのを挙げていけばきりがないのですが、フィッティング性が悪いもの、レンズ
枠入れ加工のときに苦労させられるものが、世界の一流品と言われる日本製の枠にはまだまだ多いのです。
こういう諸悪の根元は設計のまずさにあるのですが、それはフィッティングやレンズ加工や眼鏡光学の理論と実技を知らない人が、枠の設計をしているからです。
それを徐々にでも改めていくということにおいて、私は今回のアンテナショップには大いに期待しています。
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あとがき
この黒田氏が会長を務める(社)福井県眼鏡協会は、年間何千万円もの補助を行政から得ていると聞くが、その使い道に困ってこの家賃の高いアンテナショップを作った……ということでなければ幸いである。(岡本)