津田会長の年頭所感への疑問

                     岡本隆博

前書き

各業界誌紙に掲載された、平成27年の年頭所感での、津田節哉氏(公益社団法人・日本眼鏡技術者協会会長)の手記は「国家資格確立へ新たな決意」と題するものであったが、そのなかで私が疑問に感じた点について、以下に述べてみることにする。

まず、本論に入る前に、「私は眼鏡士の国家資格は業務独占にしないのがよい」というのが私の持論であり、その詳しいことは下記の記事をお読みになればお分かりいただけると思う。

「国家資格化の落とし穴」
http://www.optnet.org/namanokoe/kokkasikaku.html

 

それと、下記の記事の末尾にある岡本育三氏の投稿を見ておいていただきたい。

「眼科医、栗原勇大氏のブログ」
http://blog.sannoudaiganka.jp/?eid=140453

それと、もしも、時間に余裕があるのならば下記のHPの記事もご覧いただけると幸いである。

「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」
http://www.ggm.jp/ugs/

 

10歳以下の子どものメガネの処方を眼鏡店は一切しない?

* 以下における《 》内の文は、当該記事からの原文のままの引用であり、【 】とその右につけた番号は、引用の便宜のために私(岡本)がつけたものである。

《若年15歳未満の若年者と65歳以上の年代において照会率(岡本註:眼鏡店から眼科への照会)が高く、それぞれ6%強となりました。
このうち【若年者層】1 では眼球発達の段階にあることから、これをすべて【眼科専門医】2 の検査のもとに眼鏡調製を行うことを取り決め、他の年代層においても、【両眼の補正視力が0.7に達しない場合】3 は、同じく【眼科専門医】2へ照会することを取り決めた場合、【眼鏡購買人口のうち170万人以上が年間に眼科での受診を受けることになり、より適切なビジョンケアが多くの生活者に提供される】4 ことを示唆しております。》

【 】1について

先に紹介した岡本育三氏の投稿では、「10歳以下の小児」としてあり、これについては、おそらく津田氏も10歳での区切りを想定しておられるのであろう。

では、その場合の眼鏡処方については、たとえば、そのメガネが近視系矯正のものであり、初回は眼科で処方されたものであり、今度は二回目以降の眼鏡処方となる、という場合であっても、やはり眼科医の検査が必要、と、津田氏はお考えになっているのであろうか。

私は、その場合は必ずしも眼科医の手を煩わさなくともよいように思うのだが。

【 】2について

この場合の「眼科専門医」というのは、

(1)眼科の学会が認めた専門医。

のことなのか、それとも、そのほかに、

(2)そういう専門医ではないが、眼科を標榜している開業医(眼科のほかに内科
や耳鼻科も標榜、という開業医もいる)、病院の眼科にいる医師。

までを含めた眼科医のことなのかが、不明である。

【 】3について

これについては、たとえば、下記のようなことが懸念される。

● 眼鏡店で測定したときには両眼で0.9の視力が出ていたが、後日眼科で診察を受けて治療が必要な眼疾患が見つかったときの両眼視力は0.6だった、というようなことも起こりえるのではないか。

その場合に、その眼鏡士は問責されるのだろうか。

● また、眼鏡士の測定のときに、両眼で0.7未満であり、眼科受診を薦めてみたら、「自分は以前に眼科で診てもらったこともあったが、ずっと前からこういう状態なので、かまわないのでメガネを作ってほしい」と言われて、いまのメガネよりも少し見えるメガネを作ったという場合。

● あるいは、「いま、眼科にかかっていて、これこれの理由で視力が出にくいのです。だけど、いまのメガネよりも少しでもよく見えたらよいので」と言われた。
それで、測ってみると所持の眼科処方のメガネでは視力が0.3しか出ず、当方の測定では両眼での矯正視力が0.6出た。
それで、その0.6出る度数でメガネを作ったところ、あとで眼科からクレームが来たという場合。

● 眼科で今なんらかの治療を受けている人が「眼科では矯正視力が両眼で0.4しか出ない。おたくで一度測定してもらえないだろうか」と言われて測定したら、0.8まで出て、これでメガネを作ってほしいといわれた場合、やはり眼科へ戻ってもらわないといけないのだろうか。

● 右眼の矯正視力が0.3、左眼の矯正視力が0.8、両眼でも0.8という場合で、本人は片眼のおかしさに気がついていなかった、という場合なら、眼科に照会しなくてよいのだろうか。

● 両眼で0.6しか出ない人に眼科受診をすすめたが、「昨夜にメガネを失ったので早くメガネがほしい。今日は土曜で眼科は月曜まで3連休なので火曜日に眼科へ行くので、とりあえず、いまメガネがないと非常に困る。すぐメガネを作ってほしい」といわれた場合、メガネを作ってもよいのかどうか。

● また、ここでは《補正視力》としてあるが、眼科ではそれを「矯正視力」と言う。
その整合性はどうなのだろうか。

このような紛れがどんどん出てきそうであるが、単に「両眼で0.7未満ならば眼科へ」というだけでは、そのヘンがよくわからないのである。

それと、来たるべき「眼鏡士法」においてこういう区切りをして「眼鏡士が顧客に対して
眼科受診を薦めること」を、津田氏はどのような縛り方で義務付けをするおつもりなのかが不明である。

a.この義務を果たさなければ、資格剥奪とする。
(業務独占の資格であれば、その業務ができなくなるが、名称独占の資格であれば、その資格を失うだけで、営業は従来どおり可能である)

b.これは「罰則規定がある法的な義務」ではなく、あくまでも努力目標にすぎないのだが、一応は法律に書いておく。

c.これはあくまでも眼科と眼鏡店との取り決めに過ぎず、法律にも書かない。
このとおりにしなかったことが判明しても、特に処罰のようなものはない。

また蛇足だが、技術者協会では、その公式HP等において、傘下の認定眼鏡士に対してメガネの通販を禁じている。

それで私は、これまでに自分が見つけたかなり多くの通販眼鏡士を協会に通知したのだが、その都度の返事もないし、その後それらの眼鏡士に対して何らかの措置がとられた形跡がないのである。

それについての詳細は下記をご覧いただきたい。

「通販眼鏡士のその後」
http://eyetopia.biz/tuhan/1402151.html

 

いまこの程度の統治能力(統治意思)しか持たない協会に、今後、より厳しい統治能力を期待できるのだろうか?

なお、上記引用部の記述のあとで、津田氏はメガネの通販の弊害を説いているが、それならせめて通販眼鏡士の始末くらいはきちんとしてほしいと言っておきたい。

【 】4 について

こういうことにすれば、確かに、治療すべき疾患を眼科で見つけてもらえる人は増えるのかもしれない。

しかし、問題点が2つある。

1.生活者における眼科での費用負担のことがここでは述べられていない。

(結果として、その費用がまったく無駄になったばかりではなく、中途半端な処方箋をもらってかえって望ましくない結果に終わった、ということもありえる)

2.眼科が従来どおり「メガネ店でもできる眼鏡処方」を継続するのならば、わが国全体での平均的な眼鏡処方レベルが上がるとは私には思われないので、本当に、《より適切なビジョンケアー》となるのかどうかは疑わしいのではないかと私は思うのである。

(眼科処方のレベルがずっと高くならないままであることの理由については、先に紹介した「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」のHPに書いた)

はっきりと棲み分けを

眼鏡士が国家資格になって以後に、『眼鏡士ならば、視力が出にくいなどで、眼科受診が望ましい場合には、それを薦めてくれるので、安心してメガネ店に行ける』B

ということになったとしよう。

そして眼鏡士は、規定どおりの判別基準でお客さんを眼科へ行ってもらうことを履行したとしよう。
それではたして国民は幸せになるだろうか。

そんな簡単なものではない。以下に理由を述べる。

上記の『 』Aのことは、伝言ゲーム式の伝達により、『眼鏡士は眼科の治療が必要な眼ならば、眼科受診を薦めてくれる』となり、その次には『眼鏡士なら、責任を持って眼の病気の初期診察(いわゆる、プライマリーケアー)をしてくれるから、安心』

となり、最後には、『眼鏡士なら病気の見逃しはないから、安心してメガネを作りにメガネ店に行ける。しかも眼科と違って検査料はタダ』

などということになってしまう可能性は十分にあると私は思う。

要するに、眼疾患の初期診察、という業務の重なりを眼科と眼鏡士の間で作ってしまうことが、望ましくないことなのである。

わかりやすい例を挙げよう。

近隣に下記の3店があるとする。

Aメガネ店 : 時計は扱っていないが、時計の電池換えを安値でしている。
Bメガネ店 : 時計の電池換えもしていなくてメガネだけ。
C 時計店  : 時計の販売と電池換えをしている。

A店とB店はどちらもメガネ屋だからが仲良しになれないのは当然であるが、C店は、B店とは業務の重なりがまったくないので、たがいに顧客の紹介のしあいなどで協力関係になれるが、C店A店は、どちらも電池換えをしているから仲良しにはなれないだろう。

ただし、もし、A店の電池換えはC店の店員がA店に出かけてやっておりC店はその分だけA店にマージンを支払うというのであれば、A店とC店はうまくいく。
メガネ屋が眼科へ行って眼鏡処方をするみたいなものである。

そういう変則的な方法を除けば
いわば「隣あわせの業界」において、互いに仲良くするには業務の重なりを廃するのがよいのである。

だから私は、来たるべき眼鏡士の国家資格法制化においては、下記の2つのことの実行に踏み切れば、眼科と眼鏡店の反目が皆無となり、互いによき協力関係になるのではないかと思うのである。

1)眼鏡店は「自分たちは医師ではないので眼や体の病気発見の能力はない」ということを、宣伝の一部や、店内の表示において、必ず顧客に伝える。
(これは義務化する)

2)眼科は、「この人の眼鏡処方は、メガネ店でも可能である」とみなしたのであれば、その時点以後における眼鏡処方は医行為だとは言い難いのだから、眼鏡処方箋を発行しないようにする。

(これについて詳しくは、上記紹介の「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」のサイトに解説したが、これを眼科がやめない限り、眼科全体とメガネ店全体の協力関係というのは無理である)

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【追記】

眼鏡士の国家資格が成った場合には、私は、眼科は、眼鏡店でも可能な眼鏡処方をやめていただきたいのだが、

(その理由については上記で紹介の「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」のサイトに詳しく解説した)

実際にはそれは無理だろう。

しかし、眼科医が眼鏡処方箋を発行する場合に、患者の方から尋ねられない限り、特定のメガネ店の紹介をすることをやめる、ということに踏み切っていただく、程度のことはしていただきたいと思う。

たとえば、普通の薬の処方箋を医師が発行した場合、医師は自らすすんで特定の薬局を紹介することはないし、それは当然のことなのである。

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なお、下記に津田氏と平岩氏への公開質問があります。

「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」
http://www.ggm.jp/ugs/

投稿日:2020年10月13日 更新日:

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