岡本隆博
ヨーロッパ製などにときどき見かける調整がほとんど無理な、特殊な構造のパッド支持体(足)は別として、
メガネのパッドを支えるクリングスは、大きくわけると
1)スネーク
2)Uスネーク
3)U字
の3つに分けられます。
1)でもいろんな形があり、1)と2)の中間のようなものもありますが、一応上のように分類しますと、国産の枠では、U字が圧倒的に少ないです。
しかし、私にとっては、これはあまり歓迎できる状態ではありません。
スネークやUスネークの、問題点は
A.往々にして足が邪魔になって、レンズの鼻側の裏に布で拭けないところが出てくる。
B.足の調整のときに、足に触れないと無理なことがほとんどであり、そうなると、カラーの部分はげが起こりやすい。
C.レンズの鼻側の後ろへの出っ張りがじゃまになってパッドを思うように広げることが無理になる場合がある。
Aについては、私の感じでは約半数くらいがこうなります。
まことに困ったもので、これはスネーク足の致命的ともいえる欠点です。
あとで述べる「スネークをUに」の変形をすれば、これは解決できますが、この対策だけでこの変形をするのは面倒だし、カラーはげが多くなるので、気が進みません。
Cについては、スネークの足をU字足のように変形させてしまえば、たいていはなんとかなるのですが、加工前のメインフィッティングのときにこうなることが予測できないことも多く、玉いれ加工のときに、レンズの鼻側が足につっかえてしまってレンズが入らないという事態が起こって初めて「また、足の変形か・・・・」とうんざりすることになるわけです。
この場合も、もちろんカラーはげは起こります。
スネークの長所は、
D.パッドの(正面から見た)高さも変えられる
E.パッドを思い切り狭めるのが容易。
という2点が挙げられますが、
U字でも、初めから適切な正面高さにつけてあれば、このスネークの長所は、さほど意味を持つわけではないのですし、また、U字でも、左右のパッドの間隔を狭めるのは、そんなに難しいことではないわけです。
それに対して、U字の場合だと、上に挙げたABCの問題点はないわけですから、総合的に見れば、スネークよりもU字のほうが、ずっとずっとベターな足だと私は言いたいわけです。
それと、U字なら、クリングスの箱を工具でつかむだけで、足に触れなくても調整ができることが多いので、クリングスのカラーはげも少ないです。
そして、クリングスの調整において、箱の奥行き位置を変えずに横に動かすということがけっこう多いのですが、その場合は、クリングスよりもU字のほうがずっと容易にその調整作業ができます。
U字の最大の問題点を強いてあげるとすれば、
箱の正面高さを変えにくい、ということになるのでしょうが、それは、
F.初めから適切な位置についておれば、正面高さを変えなくて、パッドの左右間隔を調整するだけですむことがほとんどである。
G.それだけではすまない場合には、パッドを換えることにより、パッドを上か下に移動させたのと同じ効果を得る。
ということで対処できるのです。
Gについては、
H.パッドの金属突起から下の寸法がより長いものに換えたら、パッドを下に移動させたことになりますし、金属突起から下の寸法がより短いものに換えたらパッドを上に移動させたことになります。
なお、このHの方法は、パッド(箱)の位置を上下に換えにくいUスネークの場合にも使える方法です。
なお、鼻根が太い人の場合で、鼻幅が狭い枠だとどういうクリングスでどう調整しても、頂間距離が長めにしかならないことがあります。
そういう場合には、枠を換えてもらうしかないです・・・・というか、枠選びの段階で、「これはダメです」と言ってもっと鼻幅の広い枠をお見せするのがよいわけです。
(そういう点においても、メガネをお客様に選んでもらう場合に、通販では心配ですし、完全なセルフセレクションだけで済ませている「売り場に素人店員しかいないメガネ店」もいただけませんね)
そして、今述べたこととは、逆の場合、すなわち、そのメガネのそのクリングスでは、そのお客様の狭い鼻根や低い鼻根にあわせられないということは、スネークでも、U字でもめったにありません。
私は先日、産地の製造業者のかたがたと、枠の設計のことについて話をしたのですが、そのときに、ある製造業者のかたは「小売店さんの要望としてU字よりもスネークのほうがよいという声が多いので、我々はスネークを主に使っています」とおっしゃっていました。
そうであれば、全国のメガネ店の人間の見識や技術レベルに問題があるのではないかと、私は思わざるを得ません。
これを読まれて、もしも「いや、やはりU字よりもスネークのほうが良い」とおっしゃるメガネ店のかたがおられましたら、ぜひ私に、その理由をお聞かせいただきたいと思います。
それから、セル枠についているクリングスの場合、その箱の、レンズ面からの奥行き寸法がもともと長すぎることもあって、どう調整しても、頂間距離が長めにしかならないということがかなり多いです。
その場合は、クリングスを取り去って固定パッドを貼り付けてなんとかなることもありますが、もともと鼻幅が狭い場合だとどうにもならないことがあります。
セル枠にクリングスをつけるのなら鼻幅は広めのほうがよいのですが、真剣にフィッティングをしたことがない設計者が設計していることが、その原因なのではないかと私は推察します。