岡本隆博
毎年業界誌紙に、この業界のおエラいさんの年頭所感が掲載される。
そのなかで、眼鏡技術者国家資格推進機構代表幹事であり、(公社)日本眼鏡技術者協会の会長でもある津田節哉氏の年頭所感(タイトルは「最適ビジョンケア提供へシステム構築」)において、部分的に私が疑問を感じた点について、以下に述べてみる。
(引用はじめ)
例えば、眼鏡技術者の業務の中に、眼鏡調製のための屈折検査、加工調製(←ママ)、フィッティング等がありますが、この中で「屈折検査」を業務独占で行なうということは、
医師やORTの方々の業務でもあることから当然ありえないことであり、眼鏡業界として
そのようなことを要望するわけもなく、関係官庁や政党に提出した要望書の中にも一切「業務独占」という言葉は使用しておりません。
それにも拘わらず記者会見の結果、某業界紙に「業務独占を目指す」と書かれたことは理解に苦しむものであります。
そのために関連する団体から警戒され交渉が進展どころか遅延する事態を招いたことは大いに反省されるべき事柄であり、眼鏡業界誌紙の報道が適切な用語の使用による(あるいは、不適切な用語の不使用による)正確で偏りのないものであることを要望する次第であります。
(引用おわり)
私は、この「要望」に対して二つの点で疑問を抱く。
まずひとつは、この要望は業界誌紙に対しての要望なのであるから、業界誌紙の各社に対して直接言うべきことであり、その読者である業界一般に対して広く述べる必要性が私には感じられないのであるが、法制化の進捗具合がいまひとつであることの言い訳として、津田会長はこういうことを全国の眼鏡士に向けて書かれたのであろうか。
(毎年恒例の年頭挨拶文のすべての中身までは読んでいない業界誌紙の記者もいるかもしれないから、なおのこと、業界誌紙の記者に直接言うべきだろう)
もうひとつは、「えっ?!国家資格の眼鏡士って、メガネ屋としての業務独占を目指すものではなかったの?」と私は言いたい。
これまでに業界誌紙に載った、眼鏡士の公的資格の法制化において、業界首脳陣が目指す内容のアウトラインは、私が記憶している限り「眼鏡店としての営業をするには、国家資格を持った管理眼鏡士を一店舗あたり少なくとも一人は置かないといけない」(ただし「眼鏡士」は名称独占資格)という二重構造的な制度(しくみ)であり、それは、眼鏡店が必ず置かねばならないはずの主任技術者を、名称独占の資格を持った眼鏡士が法的に独占できる、ということにほかならず、すなわち、国家資格の眼鏡士が、眼鏡店の管理技術者の「業務」を「独占」することになり、それを簡単に、「眼鏡士は眼鏡店の管理技術者を「業務独占」できる資格である」と言っても、間違いではないわけである。
業界誌紙は、国家資格の内容の構想を報じる記事において、そういう制度(方式)の内容を紹介し、その意味において一部の社は「業務独占」と書いたわけであり、「屈折検査を医療関係者を除外して眼鏡士だけが独占できる」などと誤った解釈ができるような記述はまったくなかったはずである。
しかるに、もし、そのような誤解をした人がいたのならば、それは記事のタイトルだけを読んで中身を十分に読まずにそんな早合点をした人が悪いのであり、それを「業務独占」と書いた業界誌紙の責任にするというのは、筋違いであるし、クレームを付ける相手も違うのではないか。
国家資格というのは、普通は「名称独占」にとどまるか、あるいは「業務独占」までできる資格なのか、のどちらかである。
(中には、通訳のように、名称独占にはならないが、特定の業務を独占できるという珍しい国家資格もあるが、いま、その業務独占性をなくそうという動きもある)
業務独占と名称独占の件については、
本サイトの拙稿「眼鏡士法制資格化における二つの落とし穴」
http://www.optnet.org/namanokoe/kokkasikaku.html
を見ていただければよいが、たとえば視能訓練士は名称独占であり、その資格を持たなければできないという業務はないのであり、少なくとも法的には強い資格ではない。
しかし、国家資格の眼鏡士がもしも単なる名称独占(その資格を持たない者は、そう名乗ってはならない)にとどまるとすれば、
眼鏡士がいなくともメガネ店を営業できるのだから、その国家資格は多くの小売業者にとっては、その資格に感じる魅力は薄いものになってしまい、今後協会や国家資格推進機構から抜ける人間も増えて資格獲得運動も先行きが危ぶまれるだろうという思惑や、
また、眼鏡士以外の低レベル(?)な人間に眼鏡調製をさせるのは国民のためによろしくないという考えもあってのことだろうと思うが、
とにかく、国家資格の眼鏡士を、内容的に(実質的に)業務独占の資格にしようとしているのは、ほかならぬ、津田氏を初めとする業界首脳陣なのである。
さて、いまなお認定眼鏡士の会費を払っている人のうちの多くの人(全員、ではない)
は、下記の3とおりのどれか、あるいは、どれもの思いで、会費を払っているのだと私は推察する。
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1)いま自分が認定眼鏡士をやめてしまったとして、将来国家資格になって、眼鏡士でないとメガネ屋ができない、となったら大変だ。
そのときに試験を受けるなんてごめんだ。だから会費は払い続ける。
2)近隣の同業者のA店には認定眼鏡士がいない。
将来国家資格になって、あのA店が営業できなくなれば、自店にとって非常に有利になる。 あるいは、自店のある町にも進出してきた安売りチェーン店には認定眼鏡士がぜんぜんいない。 国家資格になって、あのチェーン店が営業できないことになったら助かる。
3)自店の宣伝において「認定眼鏡士がいる店」などのアピールができる。
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しかし、もし協会が、国家資格を業務独占のものにはせず、名称独占でいくという方針を明示したとしたら、上記の3)はあまり関係がなくて、1)や2)の思いで会費を払っている人は、もう次には会費を払わなくなる(国家資格獲得運動に協力しなくなる)おそれが強い。
だから協会は、いまの時点では、業務独占の資格を目指すと言わざるを得ないのだ、と私は考えている。
ではここで私は改めて、津田氏に以下の問いを発しよう。
なお、これは多くの認定眼鏡士が感じる疑問でもあると思うので、その人たちからの質問であると考えて、協会会長ご自身からのお答えをいただければ幸いである。
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質問1
あなたが目指しているのは、国家資格の眼鏡士が最低でも一人いなければ、眼鏡店(少なくとも眼鏡の調製販売を行なう商業施設)として営業できないようになる、そういう法的な制度なのですよね。
質問2
そうであれば、それは「名称独占」ではなく、国家資格の眼鏡士のみが眼鏡店に必置の管理(主任)技術者に排他的に就けるという「業務独占」なのではないのですか。
質問3
もしも、国家資格を持った眼鏡士を管理者として置かなくても眼鏡店を営業できるが、無資格者は「眼鏡士」とは名乗れないというゆるい法制化を貴殿が考えておられるのであれば、そうである旨を述べていただきたい。
そうすれば今後誰も、眼鏡士の法制化において「業務独占」とは書かないと思いますが、
どうなのですか?
質問4
貴殿は、下記の3種類の業者(通常のメガネ店だけではない)のうち、すべての業者において国家資格の眼鏡士を置かねばならないことにしたいのでしょうか。
それとも、(6)のみ、とか、あるいは、(3)~(6)の4者とか、どのようにお考えなのでしょうか。
(1)眼鏡の枠の販売のみをする業者(通販を含む)(枠の調整の有無は問わない)
(2)眼鏡のレンズを丸生地のまま販売する業者(通販を含む)
(3)眼鏡度数の測定(処方)はせずに、前眼鏡の度数のままとか眼科処方箋によってレンズを調達し、それを眼鏡枠に枠入れ加工をして販売する業者(通販を含む)
(4)直接ユーザーには接しないで、眼鏡店の請負で眼鏡枠にレンズを加工して入れる業者。
(5)ユーザーの眼の測定をして度数処方をするが、枠やレンズの調製も販売もしない業者。
(6)枠とレンズの調製販売をする業者であるが、ユーザーからの要望があれば、眼の測定をして度数決定もする業者。
(参考)上記のうち(5)は眼科をも含みそうであるが、ただし、「眼科以外で(5)のことを行う業者においては、名称独占資格の眼鏡士を置かねばならない」とすれば、眼科はこの眼鏡士国家資格化とは関係がなくなる。
質問5
業務独占の法制化が成った場合に、眼鏡店に常駐すべき眼鏡士が一人しかいない店の場合、その眼鏡士は店の休業日以外には、店を休むことができないし、営業時間内には外出もできないということになるのでしょうか。
質問6
貴殿の年頭所感の一部引用文の中で、貴殿は「眼鏡調製のための屈折検査」という語彙と「加工調製」という語彙を並列的に書いておられますが、後の語彙は「加工調整」が正しいのですよね。 (「調製」はメイキング、「調整」はアジャスティングですから)
質問7
もしも、「加工調整」よりも「加工調製」のほうが正しいとおっしゃるのなら、その理由をお尋ねします。
質問8
もしも「加工調製」が不適切であるのならば、貴殿ご自身も「適切な用語の使用」に留意すべきなのではないでしょうか。
質問9
貴殿が会長である(公社)日本眼鏡技術者協会により「認定眼鏡士」なる称号が2013年の8月に商標登録されて、その称号を用いる権利を貴協会のみが有することになりました。 それに関してお尋ねします。
9-1 その称号を知的財産権(商標)として有するのは貴協会であり、協会の会員眼鏡士ではありません。 ですので、その称号を誰かに与えることができるのは貴協会のみでありましょう。 また、貴協会自らが発した一般向けの宣伝啓蒙文書などに、「認定眼鏡士」という商標を書くのももちろんかまわないわけです。
一方、名称独占の国家資格の場合、資格保有者である個人が、その資格名(称号)を誰の許可を得ることもなく名乗ることを認められているわけです。
では、いま、直接の権利者ではない貴協会の会員眼鏡士達は、自己が公表する宣伝文書に「認定眼鏡士」と書くのには、権利保有者である貴協会の許可がいる、ということなのでしょうか。
あるいは、貴協会に対して認定眼鏡士の会費を払っていてその登録が抹消されていない人間であれば誰でも、商標権を保有する貴協会からの許可を得ずしてその称号を自分が属する店の宣伝文書などに使うことはかまわないのでしょうか。
9-2 もしも、認定眼鏡士の会費を払わずに、元認定眼鏡士であった人が、依然として「認定眼鏡士」という称号を宣伝などに用いた場合や、自称による「認定眼鏡士」を自分の肩書きに用いた人がいたとしますと、その人にはどういう罰則が与えられるのでしょうか。
9-3 しかし、それはあくまでも「認定眼鏡士」という5文字の語彙について言えることであり、たとえば、協会よりもずっと以前に大阪眼衛生協会が多くの眼鏡士を
試験により認定した実績があります。
その眼鏡士なら、宣伝文などに例えば「○田○郎(大阪眼衛生協会認定No1234眼鏡士)」と書いても、貴協会の商標権を侵すことはないのですね。
質問10
認定眼鏡士の宣伝文における問題点をお尋ねします。
https://www.mega-pri.co.jp/shop_info/dounan/hakodate_to.html
この宣伝文における「厚生労働省許可(社)日本眼鏡技術者協会 認定眼鏡士」という表記は、厚生労働省が許可した対象が、(社)日本眼鏡技術者協会なのか、あるいは、認定眼鏡士なのかがわかりにくいです。
協会に所属する眼鏡士個人を厚生労働省が許可したようにも読めます。
この種の紛らわしい表示はけっこう多いのですが、中にはもっとひどい、完全な虚偽表示もあります。
http://www.kosizaka.co.jp/glasses/
ここにおいては、《メガネ選びは、厚生労働省認可認定眼鏡士がいるお店で。》としてあります。また、
http://www.kato-watch.com/info.html
ここでは《厚生労働省認可 A級眼鏡士》としてあります。さらには、
http://www.jetaime-honda.co.jp/products.html
ここには《厚生労働省許可の認定眼鏡士であり、日本眼鏡学会会員の眼鏡士が貴方に合った安心のメガネをお作りします。》としてあります。
こういう宣伝をする人達は悪気はなく、眼鏡士個人が厚生労働省から認可を受けたと思い込んでいる人もいるのかもしれませんし、逆に、どういうことかをわかっていながら、あえて誤解されやすい表示や、虚偽表示をしている人もいるのかもしれません。
こういう現状を踏まえて、早急に協会としては、傘下の会員(認定眼鏡士)に対して、認定眼鏡士の宣伝文においては、認定眼鏡士は国家資格ではないのだから、厚生労働省によって個人が認定されたということではない、ということをわかりやすく表示する「望ましい書き方」、および、「いけない書き方」をモデル文で示すべきではないでしょうか。
(ちなみに、認定眼鏡士が始まる前の協会、すなわち、大阪眼衛生協会の眼鏡士で構成されていたころの(社)日本眼鏡技術者協会は、会員の眼鏡士に対して、いけない表示例を、会報などでときどき示していました)
なお、私自身の案としては、自分が認定眼鏡士であることを示す宣伝文においては、「厚生労働省」の語彙をその前後に一緒に置く限り、眼鏡士個人を厚生労働省が認可(認定)したという誤解をきっちり防ぐのは無理なので、認定眼鏡士の語句の近くには厚生労働省という語句は書かないことにするのが良いと思っています。
それと、(社)日本眼鏡技術者協会、という表示では、簡単に社団法人になれる一般社団法人との区別ができませんから、協会の名前を表示するのであれば、下記のどちらかの表示にすべきであるとすればよいのではないでしょうか。
(公益社団法人)日本眼鏡技術者協会
(公社)日本眼鏡技術者協会
こうすれば、あえて「厚生労働省認可」などと書かなくてもきちんとして社団法人であるとわかってもらえるのではないでしょうか。
質問11
補聴器技能士(財団法人が認定している)の資格者がいる店においては、特定の耳鼻科(医師)を管理(指導)耳鼻科として登録する必要があると聞いていますが、眼鏡士の国家資格化においても、眼鏡店は、特定の眼科を管理(指導)眼科として登録しないといけないようになるのでしょうか。
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追記
念のために述べておくと、私自身は協会の認定眼鏡士ではないが、眼鏡士の法制資格化に反対なのではない。 賛成である。
しかし、業務独占ではなく名称独占がよいという考えを持っている。
その理由については
拙稿「国家資格の落とし穴」
http://www.optnet.org/namanokoe/kokkasikaku.html
に書いたが、その要点だけをここに書いておくと、眼鏡士の国家資格が名称独占の資格になれば、次のような便益があるからである。
A)その店に技術が一応できる人間がいるかいないかがユーザーにわかりやすい。
(業務独占の資格になると、どの店にも国家資格を持つ人間がいるので、そういう判別がしにくい)
B)眼科医界からの反対が起きにくいので、国家資格化がはかどりやすい。
C)町に一軒しかないメガネ屋に資格者がいなくなって営業できなくなってしまって、地域の住民が不便になる、というようなことが起きにくい。
D)有資格者が体調不良や所用などの理由で店を欠勤していても、その店の無資格者が業務をこなせるのならば、店も顧客も困らない。
それで、業務独占になっても上記のうちのC)になることを防ごうというのであれば、制度発足のおりには、既存の店は既得権としてすべて営業を続行できるような措置をとるか、あるいは認定眼鏡士でないものでも講習を受けさえすれば有資格者になれる、というような非常に寛容なことをせざるを得ないのだが、もしもそういうことにするということが現時点で明らかになったら、いま認定眼鏡士の会費を払っている人の多くは次には会費を払わなくなるだろう。
ゆえに、協会執行部としては、認定眼鏡士たちをいまのままつなぎとめるためには、眼鏡士の国家資格は業務独占の資格」という方針を示し、さらに、「あなたがたはそのまま横滑りで国家資格の有資格者となり、そうでない人には厳しい試験を受けてもらう」というような、仮想の方針をほのめかさざるを得ないのではないかと私は想像している。
(2014.1.7)