岡本隆博
眼鏡士の国家資格化運動に関して、「眼鏡新聞」(眼鏡光学出版社 2012.6.11発行)に、愛知県で5.29に行われたパネルディスカッションでの話の内容が掲載されている。
その中から私が着目した部分を一部引用して、私の意見を書いてみる。
(以下、《 》内は、同紙からの引用である)
岡本育三氏いわく《「すでに営業している店が継続して営業をできるような対策を講じて
いかなくてはならない」》
これは、私が推察するに
「いま認定眼鏡士ではない人しかいない店でも、法制資格化以後も営業はできるようにするから、心配しないでいいので、この資格化運動に反対をしないで協力をしてほしい。
そして、ユーザー本位の姿勢で、自分が代表幹事代行をしている眼鏡技術者国家資格推進機構の会員になって、年間5000円の会費を払ってほしい」ということなのであろう。
考えてみれば、
いま営業している店は法制資格化以後も営業できるようにする……
というのはもっともな話で、仮に、いま自分は認定眼鏡士ではない、そして、今後そのための試験などを受けて合格する自信もない、という人の場合は、もしも眼鏡士のいる店しか営業できないという国家資格の制度ができるなんてことになったら、たまったものではないと思うから、そういう人しかいない店は、眼鏡士を国家資格にする運動に協力などする気にならないし、ましてや会費を払って推進機構の会員になるなんてことは到底あり得ないのが当然であろう。
しかし、これまでの我が国の歴史を振り返ってみて、ある業界である日を境に許認可制度
ができて、それまで普通に営業していた店の何割かが店をたたまないといけなくなってし
まう・・・・・なんてことには、絶対に、と言ってもいいくらいならないものなのである。
だから、以前から営業していた店には必ず暫定的な救済措置がとられるので心配しなくて
よいわけだから、今後眼鏡士の資格を取得しそうにない人だけがいる店も国家資格の運動
に反対はしないでくださいね、
ということを岡本育三氏は言ったのである。
(ただし、救済措置があるとは言っても、講習会の受講やその費用払い込みなどの多少の
手間や出費はあるだろう) さらに踏み込んでいえば、将来的に国家資格の制度が発足するとして、いま協会が認めた眼鏡士である人が、そのままで、講習会受講も試験もなく、制度発足時の一時的な特別の費用払い込みもなく、すなわち、いささかのハードルもなく、国家資格の眼鏡士になれるという保証は誰もしていない。
そのときには、おそらく試験はないだろうから、まあ自分は(うちの店は)安心だ・・・・くらいの漠然とした安心感を、いまの認定眼鏡士が持っているというだけのことなのである。
また、「この町にはいまメガネ屋が5軒あるが認定眼鏡士がいるのは、うちとあと一店だけだ。国家資格になったら、あとの3軒は営業できなくなりそうだ。特に、あの安売りの店はやめてくれたらうちは大助かりだ。フフフフ・・・・。
だから自分はこの運動に賛成だし、政治連盟にも推進機構にもお金を払い続けるぞ」
なんていうあらぬ期待感を持って、勉強意欲もないのに認定眼鏡士の会費をきっちり払っ
ている、なんていう人間がもしいるとしたら(実際、いるだろう)その思惑は外れるに違いあるまい。
しかし、そういうことはあえて具体的には何も語らないのが、認定眼鏡士をかかえている
協会執行部にとっての得策であり、もしも、正直に「いま認定眼鏡士の人でも国家資格に
なったときに、そのままで何の知的技術的ハードルも一時的出費もなく国家資格の眼鏡士
になれるとは限りません。そして、いま認定眼鏡士のいない店の場合には国家資格発足の
ときには必ず救済措置があります」などと言おうものなら、認定眼鏡士の間に動揺や戸惑いが生じて、認定眼鏡武士をやめる人が多くなりそうなので、協会の執行部は口がさけてもそういうことは言わないわけである。
彼らは、いまの認定眼鏡士の多くが持つ「漠然とした安心感」をそのまま維持しておきたいわけである。
なお、日本眼鏡技術者協会会長の津田節哉氏は、個人の資格としては業務独占ではなく名称独占とし、店の営業に関してはその資格者を置いておく必要があるという方式を構想しておられるようだ。
すなわち、実質的には眼鏡士は業務独占の資格になるというわけである。
「眼鏡新聞」紙の2012.7.1号には、下記の発言も載っている。
津田氏いわく
《「眼鏡店を開設するときに国家資格を持った眼鏡士が一人はいなければならない」という条件と「いつも店にいなければならない」という条件では違うのです。
常駐するとなると、休暇を取る場合は2名以上いなければならないことになる。
この件は未定ですが、国家資格を取りやすいステップからすると「一名以上必要」という
表現になるかもしれませんが、「国家資格を持った人がいつもいなければならない」となるかもしれません。内情としては、常駐しなければ意味がないと見ることもできます。》
もし「常駐が必要」となれば、どういうことになるか・・・・。
この場合、いわゆる名義貸しなどは、保健所などの行政機関の査察により、ほとんどでき
ないことになりそうであるから、常に店には実際に資格者がいないと、メガネ屋が営めなくなるわけである。
そして、実際に測定したりフィッティングをしたりするのは資格保持者自身でなくともよさそうなので、(無資格者でも資格保持者の指示監督のもとに行えばよい)もしも、その店に有資格者が二人以上いれば、そのうちの誰かが店にいればよいことになるが、有資格者が一人しかいない店の場合には、その人間は定休日以外は休みをとれなくなるし、その
人間が体調不良などで店を休んだら店は営業ができなくなってしまうし、ちょっとした用向きで店を離れることもできなくなってしまう。
そういうことを踏まえて、
小規模店と中規模以上の店を比べた場合には、どちらが有利になるだろうか……と考えると、当然ながら有資格者を一人しか持てない店の方が当然不利になるだろうから、そうであれば、小規模店ほど、そうなる蓋然性が高いから、やはりそういう「実質的業務独占」
制度は小規模店に不利な制度となりそうである。
もっとも、開業医などは、たいていの場合、医師が一人しかいなくてやっていて、小規模
なメガネ屋もそれと同じだ、と考えればそうも言えるのかもしれないが、開業医とメガネ屋では、営業時間の長さがかなり違う。
だから、しんどさの点や休業リスクの点で開業医と同列に論じることは無理だろう。
それともうひとつ。
上記の津田氏の言によれば、《眼鏡店を開設するときには……》ということであるから、
法律の施行よりも前から営業していた店は、この条件に縛られる必要はない、ということを津田氏は想定しておられるのかもしれなくて、それをもって既存店への「救済措置」とすることを考えておられるのかもしれない。
しかし、そうであれば、以前から営業している店の場合、法律施行以後もずっと無資格者
だけで営業を続行できることになり、そこにはなんだか釈然としないものが残ることもたしかである。