新しいメガネで頭がズキズキ
岡本
昨日、当店のHPを見たということで三重県の59歳の男性がわざわざ大阪までおこしになりました。
古い方のメガネと新しいメガネをお持ちになり、「遠くを見る度数は前のメガネと同じ度数で遠近累進を作ってもらったのだが、新しいメガネはどうも疲れる、朝からかけていて夕方になると頭がズキズキしてくる、見え方で特にどこがどうということはないし、前の眼鏡よりも新しいメガネの方が手元はずっとよく見えるのだが」という訴えでした。
調べてみますと大体、下記の度数でした。
(当店ではレンズメーターは0.01D刻みで出るようにしており、遠近累進なので、推測で下記の度数であると当方で判断しました)
R=S-3.25
L=S-4.00 C-0.50 Ax100
加入は古い方では1.50、新しい方では2.25でした。
遠用度数はどちらのメガネもほとんど同じです。
なんでも、新しいメガネでは初めは見え方もおかしかったので2回レンズを入れ替えてもらって、見え方は良くなったのだけれど、それでも長い間かけていられないのだそうです。
これは神経質で累進に合わない人なのかな、それでも、前のは平気でかけていたそうだから累進に合わないということではないのかも……、加入が一挙に0.75も上がったからかな、とか思いました。
ふたつのメガネは、古い方はツーポで新しい方はチタンのフルリムです。
新しい方は44mmくらいで丸に近い楕円の枠に入っており、度数の割りにはずいぶん薄く出来上がっているので「このレンズは高かったのでしょうね」と聞いてみると、「はい。HOYAの一番高級なもので、レンズはメーカーで枠に合わせて削ってくるそうです」とのこと。
おそらく屈折率は1.7前後のものでしょう。例の両面で複合的に累進になっているものかもしれません。
「では、検眼をしてみましょうか」と言いながらふと見ると、そのレンズの表面に映った天井の蛍光灯が少し歪んでいるような感じがしたので、ヒズミ計で見てみると、私がこれまで生きてきた中で見た枠入りレンズの中で一番ひどいヒズミが入っていました。レンズの中央部まで全面に虹色のひずみが入っています。
それで私はお客さんに、ヒズミ計で私がかけているメガネのヒズミとお客さんのそのレンズのヒズミを比べて見てもらったところ、お客さんは一瞬絶句で、それから「ううん……」という状態でした。
私は次のようにお客さんに申し上げました。
「フルリム枠の場合、プラスチックレンズだとひずみなしでは玉入れはできません。それをすると外れやすいからです。ですので多少のひずみは入りますが、でも、このヒズミはまことにひどいものです。これを買われた店へ行かれて、ヒズミを最大限少なくして作り直してもらうようにおっしゃればよいと思います。
このレンズではもう無理でしょう。
大阪のアイトピアの岡本さんに見てもらったとおっしゃっていただいていいです。
アイトピアを知らないというのなら「ホームページで見てみたらよい」とおっしゃれば
よいと思います。
もし、それに応じないようであれば、私に、その店の名前や電話番号などを教えてくだされば、私からその店に電話なりメールなりで話をします」
HOYAで枠入れまでしたのか、あるいはHOYAで凡その玉型に削ってきたものを店で最終的に仕上げて枠に入れたのかは、お客さんも、そこまでは知らないとのことでしたが、どちらにしても、ヒズミ計なしで枠入れ加工をすることの危うさを、改めて再認識させられた一件でした。
なお、自店はHOYAのレンズは扱っていないので、累進の隠しマークを見ても、HOYAのレンズかどうかを私自身がわからないので、そのレンズがHOYAのものかどうかを私がきっちり確認したわけではありません。
しかし、そのお客さんが「HOYAのレンズ」とおっしゃったことは確かです。
HOYAであってもなくても
岡本
ただし、そのレンズが実際にHOYAであっても、そうでなくても、それはどちらにしても、ここで私の言いたいことには関係がないのです。
この話は、レンズのメーカー別による優秀性うんぬんの話ではありません。
玉型加工をしているメーカーにおいて共通する問題点を私は言いたいのです。
たとえば、セイコー、ニコンエシロール、東海光学なども、玉型加工を受けています。
すなわち、そういうメーカーは、枠を預からない限り、玉型にピッタリの大きさで削って小売店へ送るということは不可能と言えるので、安全策としてやや大きめで小売店にレンズを送るのですが、小売店でそれ以後、どういう方法でレンズを入れるのか、すなわち、ヒズミ計でチェックしているのかどうか、ということまで、すべて把握はしておられないでしょう。
中には、送られてきたレンズを枠に入れてみてギュッとネジをしめたら丁度だったので、「これでいいや」と思って、それですませてしまう小売店もあるでしょう。
最近手摺りができないメガネ屋さんが増えているとか……。
玉型加工で送られてきたレンズは、丸生地で来て自店で一から削る場合とは違って、機械での追い摺りができません。
そうであれば、手摺りでの追い摺りによって丁度適切な大きさ、すなわち、枠に入ったレンズは、ヒズミが周囲に少しだけ出ていて、リムの中で動かないという大きさに持っていくのが良いのですが、手摺りが出来ない人は、それができないわけです。
それゆえに、手摺りのできない人しかいない店では、少々きつくても、玉型加工で送られてきたまま大きめのレンズを枠に締め付けて入れてしまうということが日常茶飯事となっているのかもしれません。
薄いレンズならよくたわみますから、少々大きくてもネジを強くしめれば、見かけはきっちり入ってしまうものです。
各レンズメーカーでは玉型加工で送られてきたレンズの枠入れのときの注意点を得意先小売店に指導(あるいは、お願い)を、どこまでしているのでしょうか。
そんなの、小売店の責任だよ、とおっしゃるかもしれません。
たしかに、原理的にはそうでしょう。
しかし、現実では、小売店のレベルはさまざまなのですから「どこの店でも当社のレンズを買ってくれるのならそれでよし」として「最終的なところまでは関知せず」ということでは、自社のレンズを使ったメガネを掛けた人がヒズミによって違和感を感じてしまう、ということが今後も十分に起こり得るのですよ。
なお、私自身も、今回のこの話の以前にも、他店購入メガネに関する不快感の相談を受けて、調べてみたら、たいへんきついヒズミが入っていた、ということが何度かありましたが、購入したメガネ店に相談をかけても原因がわからず、「慣れてください」と言われるばかりで、そのメガネをがまんして使っているユーザーも多いのではないかと推測します。
たとえば、日本眼鏡技術研究会雑誌74号の「メガネ何でも相談室」P195にも、メガネをかけてものを見て気持ちが悪くて困っておられたかたのメガネを、ヒズミを取ることによって気持ちのよいものにしたという長崎県での話が載っています。
玉型加工をするレンズメーカーさんには、当社のレンズは技術レベルの低い店には扱わせない、という姿勢や具体的な施策も、必要なのではないかと私は思うのです。
高級レンズほど、薄くできます。
薄くなるほどひずみは入りやすいです。
そうなると、高級レンズほど、枠入れのひずみによりお客さんに違和感を与える恐れが高いのだということになるわけです。
そして、さらにそれが玉型加工のレンズであれば、先程私が述べた理由により、ヒズミが多いままに仕上げられてしまう可能性が、より高くなります。
高級累進レンズを発売していて玉型加工を受けているメーカーさんには耳の痛いことかもしれませんが、これはもう一度真剣に再認識をし、すぐにでも有効な対策を講じるべく行動を起こしていただきたいです。
なお、もしも、これを読んでHOYAのどなたかが、今回の私の話には納得できないということでしたら、私にその旨をご連絡をいただければ、そのお客さんの住所氏名をお知らせしますので、そのお客さんに直接問い合わせてみられたらよいと思います。
ビックリ、のち、憤慨
永光
お客様にヒズミの実態を見てもらう場合、当店の場合ヒズミ計は加工場にあり、それを売場に移すのも手間ですし、加工場に入ってもらうのはあまりよろしくありませんから、最近は以前(たぶん小見さんから)教えていただいたパソコン画面を利用する方法をとっています。
それにパソコン画面のほうがお客様にも見やすいし、感度もヒズミ計よりシビアなようです。
岡本
その場合、手で持つ偏光レンズ(偏光フィルター)はどういうものを使われますか?
永光
検眼のとき使用している手持ちのものです。偏光レンズはセルの内掛けに入れています。
私が検査するメガネをパソコン画面上にかざし、お客さんに偏光レンズを眼にあてがって見てもらいます。
するとたいていは、まずびっくりされて、それから憤慨されます。
岡本
永光さんは玉型加工は利用されますか?
永光
過去1,2回痛い目にあっているので、今は絶対にしません。
岡本
どういうふうに「痛い目」にあわれたのでしょうか?
永光
サイズが大きめに加工されてきて、手摺りを余儀なくされたことです。
岡本
な~んだ、その程度のことなら、ベテランの永光さんなら手摺りでちょいちょいと修正すれば特に困るほどのことでもないのではありませんか?
最新式の機械を使ってわれわれがレンズ加工をする場合に、フレームを手元に持っていて行なっても、一度では大きさはぴったりとは合わず、2度摺り3度摺り4度摺り、ときには5度摺りくらいまでやって、初めてぴったりの大きさに摺り上がるのですから、手元に枠がない玉型加工で、追い摺りなしでバッチリの大きさでレンズが出来上がってくるなんて、元から期待できないわけですし……。
私はまた、永光さんの、その痛い目というのは、中心位置が指定どおりになっていなくて、メーカーへの再度の注文をせざるを得なかったのだけど、その費用はメーカー負担としても、お渡しの日を遅らせにくかったので大いに困った、というようなことかなと思ったのですが、そういうのではなかったのですね。
永光
もう一件思い出しました。
ツルツルコートが出始めの頃、玉型加工しか受け付けなかったのでやってもらったところ、メーカー加工でありながら、乱視軸が15度くらいずれていました。
これは遠近累進レンズでしたから納期が遅れてしまいました。
高級設計レンズだから、ツルツルコートレンズだから、玉型加工しか受け付けない、と偉そうに言っておきながら不完全なものを納品する制度はやめるべきだと思いますが、今の量販店がそれを利用している限りやめられないでしょう。
それならせめて丸生地納品も受け入れるべきで、HOYAは融通が利かないようですが、SEIKOは指定すれば丸生地でもOKです。
岡本
乱視軸が15度も違ったら単焦点でもアウトですよね。
……というか、累進だったら、丸生地でもらっても、乱視軸が15度ずれていたらアウトですが、単焦点なら丸生地だと乱視軸のずれもくそもないわけで、単焦点の玉型加工というのは、乱視軸と光学中心の位置を小売りでなんとも出来ないのですから、いわば、よけいなおせっかいである、コワいものですね。
あ、そうそうニコンエシロールも、シーマックスなどの玉型加工においては丸生地は受けてくれませんでしたね。
それで、量販店では玉型加工を多用しているというのなら、われわれの丸生地からの加工との違いをうまく利用すれば、われわれは、より正確で気持ちのよい(ヒズミの少ない)メガネを提供できるということになりそうですね。
一向に改まりません
浜田
メーカーの玉型加工に関しては、その問題点を私は再三再四メーカーに訴えているのですが、一向に改まる様子がありません。
いくらレンズの性能が良くなったとしても、ひずみの酷いメガネは違和感があるばかりではなく、大きいサイズのレンズを強くしめることにより、フレームのリム切れもおきやすくなります。
また、しめつけによるレンズ変形の可能性もでてきます。
そんなことはわかっているのに、HOYAレンズの新製品高級累進レンズは玉型加工のみの受付ですから何をか言わんやです。
我々、真面目にメガネを作っている眼鏡技術者は、玉型加工拒否の姿勢を示さないといけませんね。
岡本
浜田さんご自身のことだけを考えるのなら、浜田さんは当然ながら手摺りでちゃんと追い摺りをされるのですが、全国のメガネ屋さんがそうだとは限りませんから、いい加減なメガネ店で最終的に枠入れをされたメガネを使うユーザーは気の毒だということで、全国のユーザーの立場にたって浜田さんは玉型加工でなくてもよいようにしてほしいとメーカーに訴えておられるのですね。
あるいは、他にも玉型加工で具合が悪い点が何かあるのでしょうか?
浜田
フレームカーブとヤゲンカーブが合っていないことがありました。
ヤゲンカーブがフレームカーブよりも随分強かったのです。
そのフレームはツーブリッジだったので、ヤゲンカーブに合わせてフレームカーブをつけづらかったです。
ということは、レンズが外れやすい状態になりますから、結局レンズを再注文して自店加工でやり直しました。
で、このこともセールスに訴えたたのですが、担当が変わったりして有耶無耶にされました。
原
私は以前は、プラスレンズで薄型加工に限ってメーカーに玉型加工で注文していましたが、最近は、玉摺機のチルト機能を使ってアンダーすっきり加工をしたいのでメーカーの玉型加工を利用することが無くなりました。
メーカーの玉型加工では、そこまで指定はできなかったと思います。
縦寸横寸を指定した俵形の方がよい
岡本
なるほど……。丸生地からの加工にはアンダーすっきりをやりやすいというメリットもありますね。
それと、プラス系で薄くしたい場合に玉型加工までしなくとも径指定で十分です。
倒乱視でなければ、ミリ単位の径指定のみでOKですし、倒乱視の場合には、たとえば、イトーレンズのスリム加工なら、レンズの縦寸と横寸をミリ刻みで指定し、アイポイント(あるいは、光学中心)の位置を指定すると、見事に薄いプラス系の累進や単焦点レンズ(俵形)が送られてきます。
それと、両面非球面などの特殊なレンズの性能を最大限生かすために玉型加工で、という説明をメーカーからよく聞くのですが、その場合、別に玉型加工でなくとも、縦と横の寸法を指定した俵形でも変わりはないと思います。
もし、それではレンズの性能が十分に出ないというのであれば、玉型加工と俵形とで、どう違うのかを具体的に説明をしていただきたいです。
ただし、当社の設備機械の関係で、なんて理由はだめです。出来上がったレンズにおける性能の違いがあるのかないのか、あるとすれば、どう違うのかということをご説明いただきたいです。
その違いがないのであれば、俵形のほうが、メガネ店での機械摺りができますから、大きなヒズミ入りのメガネがユーザーに渡ってしまう可能性が減るので、優れた方式だと言えるでしょう。
なお、枠をレンズメーカーに送って、メーカーでその枠にきっちりレンズを入れてくれて、もちろんヒズミも最小限で、しかもレンズが動かないように、というふうになっている、というのであれば、それでもよいのですが、その場合には、枠を送る手間や費用の問題と、すでにフィッティングが出来ている枠(枠のフィッティングは玉入れ加工の前にすべきである)にレンズを入れて、元のままの形態をいかにして保つか、というノウハウというか技術は、まだメーカーは持っていないのではないかと私は思うのです。
現に、そういう加工をレンズメーカーに依頼したら、フィティング状態が変わってしまった状態でレンズが入ったメガネが送り返されてきたことがあると、京都の保田さんがおっしゃっていました。
なぜそうなのかというと、そういう加工で「元の形状を変えないで」という注釈つきの加工依頼は、あまり多く経験していないでしょうから。
ただ、これは慣れてくればできるようになるかもしれませんが、しかしそうなると逆に、レンズの枠入れ後のヒズミについての責任は、すべてメーカーにかかってきます。
はたして、そこまでしても、レンズメーカーは玉型加工を維持したいのでしょうか。
(了)