阿井植矢
なぜこんなに中心を広く入れた?
49歳の大柄な男性が来店されて、「このメガネ、2ヶ月ほど前に買ったもので、一応見えるんやが、なんかしっくり来ない。それと、レンズの端がこういうふうにカケが入ってきたし」と言いながら、大きなメガネをケースから出された。そのときケースの内側に、ある3プライス店(安売り店)の店名のロゴがチラッと見えた。
身体だけでなく顔も大きなかたで、その枠は60□18の、けっこう天地サイズの深いツーブリッジのナイロールフレームで、プラスチックレンズが入っている。2カ所ほどハマグリが入っている。面取りが不充分なせいだろう。
度数を調べてみると、
R=S+2.75
L=S+2.25
でOCD(光学中心間距離)がなんと75.5mm!
見たところご本人のPD(瞳孔間距離)はまあ普通だから、近用プラスでこのOCDは、いくらなんでも広すぎる。
「これ、8000円で買えて、40分でできたんだが、やはり安物やからあかんのかな。若い子が、やけに簡単に測ったしなあ」とのこと。
「遠方専用は持っているが、遠近両用はいらん。 前に一回作ってあかんかった」とおっしゃり、遠近両用には強い拒絶反応を示される。
「近く専用でいいから、もっと見やすいのを作ってほしい」とのこと。
では、とにかく測定してみましょう、ということで測った結果。
屈折度数(5mでの自覚検査)としては、
R=(1.5×S+1.50 C-0.50 Ax155)
L=(1.5×S+1.00) PD:RL共に33.5
となった。
今のこのメガネは度が強すぎるのではないか、自分はあまり細かい字は読まない、新聞雑
誌程度が見れるくらいでよいので、あまり強い度数にはしてほしくない、とのことで、いくつかの近用度数で見てもらった。
R=S+2.75 C-0.25 Ax155
L=S+2.25 OCD=58
結局ここに落ち着き、多少ともベイスインによる輻輳補助の効果を出すためにOCDは58とした。
これと現在眼鏡とは、度数はほとんど同じなのだが、仮枠に入れたものと、現在眼鏡を掛けくらべてみると「こっちの方がずっと見やすい」とおっしゃる。
私はその理由(光学中心の間隔のこと)を説明したが、十分には理解していただけないようであった。 ただ、現在眼鏡ではとにかくレンズの中心の位置が合っていなかったのだということは知っていただけた。
ところが装用テストをしたら、「細かい字を少し近づけると見えにくい」とおっしゃる。楽にはっきりと見えるということになって、だんだんと欲が出てきたようだ。
それで結局近近累進にして、下部を下記の度数にし、上に向けて1.00Dの逆加入を与えた。
R=S+3.50 C-0.25 Ax155
L=S+3.00 逆加入1.00D
検査が終わったとき、お客さんは「こんなに詳しい検査は初めてや。眼科でももっと簡単やったで~」とおっしゃった。
枠も、もっと小さな新しいもので
それで、今回作るメガネは、いまの枠を活かすか、枠ごと一式で作り直すかということになり、現在眼鏡の枠を見たところ、さほど悪いものでもなさそうなので「この枠も使えますが、これだとサイズが大きいので、正確に作ると、いまよりもさらにレンズが大きく重くなってしまいます。
それでもレンズを薄く軽くしようと思ったら、屈折率の高い、値段の張るレンズが要ります。
ですから、高くないレンズで薄く軽くしたいのなら、枠をもう少し小さめのものに替えられたらいいと思います」と言ったら、了承された。
それで、55□18の枠にしてもらった。これだと60mm径でできるので、屈折率が1.5のものでもかなり軽く薄くできる。
思うに、現在眼鏡は、レンズの屈折率は不明だが、厚みからして70mm径のレンズだと思うが、そのレンズでレンズの耳側コバが薄くなりすぎない程度の(ナイロールなので)適当な心取りで入れたようだ。
もっと小さな枠を勧めておれば、同じレンズでも、もっとましなOCDで入れられたと思うのだが、あの種の店ではコンサルティングセールスというのは無理で、枠選びも全くのあなた任せだったのだろう。
「これにするわ!」と言われたときにOCDが取れるかどうかということはいちいち考えないのは、小さな枠が全盛の昨今としては、それで当然で、ごくたまに大きな枠で作るとなっても、そこまでは頭が回らなかったのだろう。
そして、加工のときになって、OCDを取るのは無理とわかっても、まあ、適当に入れておく」ということにしたのだろう。(おそらく偏心注文の計算もできないのではないか)
それにしても、遠見PDが67mmの人に、OCDが75.5mmの近用プラスのメガネを作るとは ……!?