レンズの銘柄別の説明が多いが
岡本
メガネ店のHPを見ていると、検眼技術に自信のない店ほど、レンズの銘柄別の説明が多いように感じます。
やれ、このメーカーのこのレンズは両面非球面だからどうだとか、両面累進だからどうだとか、ほとんどがメーカーの受け売りです。
我々の永年の経験では、どんなに高級なレンズを使っても、0.25Dの処方度の違いでご満足いただけなくて、それを同じレンズで度数を変えただけでなんとかなった……というようなことはよくあるわけですが、同じ度数でレンズの種類を変えてどうにかなったというのは、実に少ないものです。(皆無ではありませんが)
その昔、五味康介という作家がいました。
マージャンの達人で『五味康介の麻雀教室』という本も出していました。
その五味は「マージャンは運3技7だ」と言っていました。
では、メガネの見え方はどうでしょうか。
同じ度数で同じ枠に入れるものとして、銘柄(個別のアイテム)がいくつで、技術(検眼技術や心取り枠入れ技術やフィッティング技術)はいくつでしょうか。
単焦点と累進に分けてみなさんのお考えをお聞かせくだされば幸いです。
なお、累進の場合は、同じ遠近なら遠近で、屈折率も累進帯の長さも同じで、銘柄だけが違う、という場合の「銘柄」とします。
単焦点の場合には、いま普通に売られているレンズで、たとえば、球面、外面非球面、両面非球面による違いやカーブの違いはあるけれど屈折率は同じという場合、その違いを「銘柄による違い」とします。
累進なら、銘柄3で技術が7、単焦点なら、銘柄1で技術が9、とかいう答え方でお願いします。
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野々村
これも面白いですね。
累進の場合:銘柄が1で技術が9……ただし、加入度が強くなるほど、銘柄の比重が0.2ほど多くなるかとも思います。
つまり加入度の強いほど銘柄にこだわりたいです。
単焦点の場合:銘柄が0.5で技術が9.5……この場合はフレームとのマッチングが問題にもなりますが、フレーム選びは技術の分野に含まれているとします。
若井
累進の場合は、銘柄が2で技術が8、単焦点の場合は銘柄が1で技術が9、という感じです。
それぞれ根拠があっての比率ではなく感覚での数字になってしまっていますがこんな感じだと思います。
累進レンズにしても単焦点レンズにしても、そのレンズが理想的な状態で使用されていることを前提に開発がされていると思います。
なので、先ず銘柄が云々ということよりも技術のほうに比重が置かれると思います。
岡本
なるほど。
それで、みなさんにお願いしますが、もしこのテーマに関して、同じ度数でレンズを替えたら良くなったという例があるならば、書いていただくとありがたいです。
具体的な数字はなくとも、たとえば、弱度近視で、カーブの浅い非球面からカーブの深い球面設計に換えたら見え方が改善した、とかいうことでもいいです。
こういう実例がありました
板場
累進の場合は銘柄が2で技術が8。
私も加入度数があがるほど、レンズの種類も大事と思っています。
ただ、慣れの問題も大きくあるので、最新設計のレンズだからといって、すべてのお客様に良いとは言われません。
単焦点の場合は銘柄が1で技術が9。両面非球面のレンズにして、すごく感動していただいた方が数名います。
岡本
その場合、まったく同じ度数で、両面非球面にしたせいで見え方が良かったのであれば、(フィッティング状態は同じとして)両面非球面の優越性が確認できるのですが、比較対象のメガネと度数が違ったのであれば、両面非球面のせいなのかどうかは、いまひとつ判然としないわけです。
それで、そのかたがたのおっしゃった両面非球面の良さとしては、空間視の自然さ、側方視のぼけのなさ、その他、どういう感想が多いのでしょうか?
また、度数としては、どういう度数で、両面非球面の効果が上がると思われますでしょうか?
ちなみに、私の場合、覚えているのは一人だけです。
度数はうろ覚えですが、近視は2Dくらいで乱視が3Dくらいの人のときに、両面非球面を使ったことがあります。
効果については、特に何ともおっしゃらなかったので、効果があったのかなかったのかは、確認していません。
板場
空間視のことは何も聞いていないのですが、側方視の見え方がすごく良いとのことでした。
両面非球面は、度数が強い、特に乱視度数が強いときに効果があると思います。
岡本
私の場合、同じ度数でレンズの種類を換えてなんとかなったというのは、覚えているものとしては、かなり前、まだ非球面が出来る前ですが、あるレンズで作ってお渡ししたところ、空間視の違和感を訴えられまして、前の眼鏡をよく見てみると、度数はあまり違わなかったのですが、前の眼鏡のレンズはカーブが強かったので、同じ新規の度数で、カーブの強いものに換えて、クレームが解決した、ということがありました。
それから、累進の場合、加入度の強さのほかにも、累進部の長さが短いほど、いわば無理をした設計ですので、設計の巧拙による見え方の差が生じることがあるのではないかと思います。
ですので、累進の場合をまとめると、累進部の長さが同じなら加入度が強いほど、加入度が同じなら累進部が短いほど、銘柄による差は出やすいと言えるかもしれませんね。
ということは、加入が強めで累進部が短い場合に銘柄による違いが最も出てきやすいのでしょう。
そして、老眼の初期のうちは加入度が弱いので、どんな累進を使っても大同小異、ということでしょう。
今回の私の質問にお答えいただいたのは、お三かたでしたが、どなたのお答えも大体似たもので、私の感じかたとほぼ同じでした。
先日の11月の研究会で原さんが、同じ度数でレンズの種類の違いによる見え方の比較をされ、カーブが浅い外面非球面よりも、4カーブの球面設計の方がベターな見え方で、それよりもさらに8カーブの球面設計のレンズの方が空間視の点(ものの大きさが実物に近く見え、歪曲が少ないなど)で優れているということを発表されました。
もっとも、この場合の8カーブレンズは、スポーツグラス的なソリの強い枠に入れると、レンズ光軸と視線が大きくずれるので正しい比較にならないから、通常の矯正枠に入れての比較だったのですから、8カーブならどんな枠でも具合良く見えるという誤解はなさらないようにお願いします。
とにかく、この比較実験により、レンズの単価アップをねらって、単純に「非球面ならものが自然に見える」と宣伝することのウソッぽさが、改めて浮き彫りにされたと思います。
田中
店のスタッフで下記の度数で同じフレームで作りたいというので、ちょうどいい機会かなと思い、本人には何も告げずに、より薄いレンズを希望していたため、屈折率1.76の両面非球面(メーカーでいう見やすさ重視のタイプ)と外面非球面で作製して、装用感に差があるのかどうか試してみました。
各レンズの前面カーブは
両面非球面……1.6カーブ(薄さ重視のタイプのカーブは、0.5カーブだそうです)
外面非球面……0.5カーブ
35歳 男
RV=(1.5×S-5.75D C-1.75D Ax175)
LV=(1.5×S-5.75D C-1.25D Ax10)
2~3日装用しての感想は両者に差異はほとんど感じられないようで、しいていえば、0.5カーブの外面非球面の方が足元を見たときに少し浮き上がるような違和感を感じるというような感想をもらしていましたが、最終的には何が違うのかわからない、というのが実感だったようです。
側方視は、どうでした?
岡本
貴重なデータをありがとうございました。
この比較でしたら、通常は両面非球面の方が側方視でのぼやけは少ないという感想が聞けるように思うのですが、そういう比較は見てみられましたでしょうか。
田中
側方視についても注意深く見てもらいました。
視標を角度をつけて置いて比較したりしてもらいましたが違いがわからないようでした。
岡本
へ~!それは意外ですね。 だったら、何のための両面非球面なの?と言いたくなります。 そして、近視の場合に多い、低矯正の場合には、球面設計のレンズだと側方視では度数がやや強くなるので視力が上がるというメリットもあるわけです。
それと、累進レンズのことで思い出しましたが、何年か前の話ですが、ある眼鏡学校の校長さんが、安いものと当時の最高級のものとで掛けくらべてみたところ、見え方に違いを感じなかった……ということを聞いたことがあります。
その感想が誰にでも当てはまるとは限らないでしょうけれど、とにかく、高級累進レンズを推奨販売するのなら、同じ加入度、同じ累進長さのもので、安いものと高いものとを装用テストで見比べてもらって、その違いを確認できた場合に高いものをお勧めする、というのが良心的、というか、まともな販売方法だと思います。
売り上げの低迷に対する対策として「単価アップ」しか方法がない量販店などでは、とにかくセールストークで、実質あまり性能が変わらない「高級レンズ」をお勧めするというところもあるようです。