津田会長の年頭所感に疑義を呈す
岡本隆博
毎年業界誌紙の新年号には、業界の企業や各団体の代表者のかたがたの年頭所感が載っている。
2008年の(社)日本眼鏡技術者協会の津田会長のそれを読んで、少し引っかかった所
があるので、それについて書いてみる。(どの業界誌でも同じ内容であるが、一応「眼鏡
新聞2008.1.1から採った)
反論ができずに悔しかった?
(引用初め)……認定眼鏡士制度が眼鏡学校を卒業することを基本とした制度であり、しっかりした専門教育を受けて、消費者に適切なビジョンケアを提供できる人たちのための制度として整備が進展したわけであります。
数年前のテレビ番組では、眼鏡店で視力測定を受け眼鏡を調製してもらうと、緑内障など
の疾患を見落とす危険性があるなどと批判されておりましたが、その頃はまだ認定眼鏡士
制度が導入されておらず、認定眼鏡士がいる店とそうでない店の区別さえ明確でなかったため、そのような批判にも明確な反論ができなかった悔しさを記憶しております。
(引用終わり)
○
ここで津田氏が書いているのは、他ならぬあのテレビ番組、すなわち平成12年11月に
関東ローカルで放映された「報道特捜プロジェクト」(日本テレビ)に、岩手県の鈴木武敏医師が出演して緑内障で失明したという男性を取りあげた番組のことに相違ない。
それについては本会会誌53号に詳しく書いたが、あのときは私もあの番組で少し取材を
され、つまみ食い的な取りあげられかたをしてしまったのだが、とにかく、放映が終わってから私は鈴木医師と、もう一人同じ番組に出た井上治郎医師に公開質問をした。もちろん返事は無かったが、決して、眼鏡業界の誰もが首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っていたわけではないのである。
それで、私が上記の津田氏の記述について、首を傾げるのは、以下の点である。
津田氏のこういう言い方であれば「今なら、認定眼鏡士がみな緑内障などの眼疾患は見逃
すことなく、眼科受診を勧められる、と反論できる」としか解釈がしようがないが、私は「そんなことは無理でしょう、あなたの書かれたことはおかしいですよ」と言わざるをえない。
検査設備と十分な知識を持つ医師でさえ、緑内障を見逃すこともある。なのに、検査設備
もなく十分な医学的な知識もない眼鏡士が、医師へ紹介すべき疾患をすべて見逃さずにすむなんてことは、絶対にあり得ない。
もちろんであるが、視力が出にくいとかその他の何か気になることがあれば眼科受診をす
すめるべきだし、それをしたところ疾患が発見されてことなきを得て感謝された、なんてことは、別に認定眼鏡士ではなくともマトモなメガネ屋ならよくあることである。しかし、そういうことと、眼鏡疾患の見逃しがないメガネ屋、というのとでは、まったく違うレベルの話なのである。
本末転倒はダメ
鈴木医師は、眼鏡処方の検査のときに眼科受診を勧めるメガネ屋なんて誰もいない、と言っているのではない。見逃しがあるから、メガネの処方ではメガネ屋では受けないのがよい、と言っているのである。
それに対して反論するには、下記の二つの論しかあり得ない。
1) いやいや、どこのメガネ屋でも、(あるいは、認定眼鏡士なら誰でも)疾患の見逃しはしませんよ。
2) そもそもメガネ屋に疾患の発見や推察に関して確実なことを求める方がおかしいです。
なぜならば……
1)はまったく非現実的であり、ウソであるから、当然ながら私は2)の論理で鈴木医師に公開質問で反論した。その内容については会誌53号に書いたのでここに繰り返すことは避ける。
そして、あのテレビ番組以後も、同医師は眼鏡業界の業界誌(月刊「眼鏡」や「近代めが
ね」)に本人や配下の検査員による投稿をし、「眼鏡屋の眼鏡処方は病気の見逃しがある
から良くない」ということを言ってこられたのだが、私はそのつど何倍もの反論や反問をして、鈴木医師からのいわば「横槍」を退けてきたのである。
いささか手前味噌なことを言うようで心苦しいのだが、以上は実際にあったことである。
それで、津田会長はそういうことをご存知であるはずなのに、この冒頭で引用したような
記述を新年の所感に書かれた。「岡本さんがあのように一生懸命になって反論したのに、
あのとき自分は理論武装ができておらず、黙っている他がなかった」との忸怩たる思いが
あり、それがあの記述になったのであろうか?
あるいは、認定眼鏡士の宣伝のために、できもしないことをできるかのように書かれたのであろうか。
何度でも言う。
「我々認定眼鏡士はしっかり勉強しているので、眼科へ紹介すべき人には、必ずそれができます」などと一般に向けてアピールするのは、危険きわまりないことで愚かなことである。
我々の眼鏡処方における眼疾患などの発見については、何も書かないのが賢明である。
普通の常識のある人ならば、メガネ屋ではメガネの度数を測ってはもらえるが、眼科とは
違うのだから、目の病気をきちんと漏らさずに診断してもらえる(見付けてくれる)ことなど期待すべきではない。たとえ、そういうことを示唆してくれたとしても、それはたまたま気がついてくれたということに過ぎない、と分かっているはずなのだから。
そして、もしもそれについて問いただされたならば、「目や身体の病気のそれは医師の仕事であり、我々は、ただ快適に見えるメガネができそうであれば、それを測って調製するだけです。眼疾患などについては、視力測定をしていておかしいなと思えば、眼科などへの受診をお勧めしますが、必ずそれに気がつくというわけではありません。眼疾患の発見(診察)を期待されるのであれば、眼科での受診をお勧めします」と答えるのがよいのである。
実際に、そのとおりなのであるから。
もしも、我が国の眼鏡士がアメリカのオプトメトリストのように、疾患発見の責任を持たされると、業務において、得点を得ること(快適なメガネを処方すること)よりも、致命的な減点を防ぐことの方に気がいってしまい、疾患発見の設備や技術にばかり磨きを掛けることになり、肝心の眼鏡処方のレベルアップにいそしむという姿勢を持つ人が少なくなってしまうのである。
それを「本末転倒」と言う。