岡本隆博
下記の記事は、2015.3.21に眼鏡技術倶楽部のMLで私がみなさんに話したものです。
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前書き
視力検査装置やレンズ加工機を置いていないメガネ店はありえますが、レンズメーターを置いていないメガネ店はないはずです。
今日はひとつ、レンズメーターについて話をしてみましょう。
《レンズメーターは眼科向けの計測器》
レンズメーター(以後、LMと略す)を使うのは、主としてメガネ店と眼科です。
ではLMは、そもそもメガネ店向けの商品なのか、あるいは眼科向けの商品なのか、どちらでしょうか?
もちろん、LMはどちらでも使えるようになっているのですが、私は、どちらかと言えば、少なくともいま、ほとんどの眼科やメガネ店が使っているオートレンズメーター(以後、ALMと略す)は眼科を主たる顧客として設計製造されたものだと思います。
その理由は、ALMは、メガネの玉入れ加工のときの使用よりも、現在眼鏡(あるいは、できあがったメガネ)の度数の読み取りに便利なようにできているからです。
なぜ、そう言えるのかといいますと、現在眼鏡の度数読みとりの場合、眼鏡のフロント部を上に向けて前後逆にしてLMにセットするのですが、そのメガネがプリズムつきであった場合でも、その度数を読み取るときにはプリズムのベースの方向は表示されたままでよいわけです。
しかし、ALMを玉入れ加工のときに使うには、表示されたプリズムのままで印点して そのまま作るのではなく、印点してから必ず180度まわすという操作が必要です。
それの180度まわしをうっかり忘れると、プリズムの基底方向が逆に出来上がってしまいます。
このことは、とりもなおさず、ALMは、玉入れ加工よりも、現在眼鏡の度数読み取りの方に力点をおいたものなのだ、ということであり、であれば、それはメガネ屋よりも、眼科において歓迎されることだといえるでしょう。
《度数読み取りに四苦八苦の眼科》
昨今にこの業界や眼科に入ったかたは想像もできないでしょうが、ALMが出現する前には、眼科では、LMに関してどんな状況だったでしょうか。
そのときには、もちろん、世の中には、マニュアル式のレンズメーター(以後、MLMと略す)しかありません。
多くの眼科では、これによる現在眼鏡の度数読み取りに四苦八苦していたのです。
メガネ屋で、昔の眼科の内部事情に詳しいかたなら、私のこの「四苦八苦していた」という描写に対しておそらく異論はないと思います。
そのころの眼科で、屈折に関して半人前の看護婦さんなどは、現在眼鏡の度数読み取りにおいて、複性近視性乱視以外の乱視は、正確に確実に読み取れる人が少なかった、といっても過言ではありません。
医師でさえ、混合乱視の読み取りなどはときどき間違えている人もいましたし、特に、累進レンズとなれば、もう完全にお手上げともいえる状態でした。
(もっとも、メガネ店でも、累進レンズの読み取りには手こずっていましたが)
それで、スタッフが数名以上いる眼科などでは、LMによる度数読み取りの得意な人が一人いてちょっとややこしそうなメガネの場合には読み取りをその人に任せる、なんてこともよくあったといいます。
ですので、ALMが商品化されたときに、真っ先に飛びついたのは、それまでMLMによる度数読み取りに苦労していた眼科なのです。
逆にメガネ店は、ALMが出てからも「別にあんなものがなくても、いまのMLMで用は足りる」と思って、「使える間は、これを使おう」ということでなかなかALMに換えない店もけっこうありました。
ただし、半人前の店員が多いメガネ店では、やはり早期にALMを導入しましたが……。
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《このクイズ、わかります?》
では、ここでみなさんにクイズを出します。
(1) ALMを、プリズムつきのレンズ加工のときに印点してから180度まわすという操作をしなくてすむようにするには、どのような設計にすればよいのでしょうか。
ヒント
「できたメガネの度数読み取りのときに前後を逆にせずに読み取れるようにする」、という回答は不正解です。
できたメガネをLMにそういう置き方をすると、枠の中央部が若干上に突出している場合にフロント部の水平が保てなくなり、乱視軸などが正確に測定できなくなります。
そのときにフロント部を水平にするために、LMの移動板を波打った複雑な形にする、というのは、枠のサイズがいろいろあるので、非常にやっかいで現実的な話ではありません。
(2) この「180度回し」に対して「改良すべし」という意見がもしも、ALMのメーカーに多く寄せられれば、メーカーは何か手を打つでしょうが、いっかな、改良される気配がないのは、どうしてでしょうか。
(3) いまのALMはすべての点においてMLMよりも優っている、とは言えないのです。実はいまでも、ALMよりもMLMのほうにアドバンテージ(優位性)がある点が ひとつあるのです。それはどんな点でしょうか。
ヒント?
レンズ加工のときの、ある「うっかりミス」を完全に防ぐ方法(措置)が、いまのALMにはビルトインされていないのです。
ところが、LMLであれば、ある方法を励行するクセをつけてしまえば、そのうっかりミスは完全にシャットアウトできるのです。
では、その方法とは?
ヒント?
プリズムつきレンズの加工とは別のことで、お答えください。
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このクイズの答は、このMLにおいてこのあとで出題者が書いていますが、ここには答を書くことはしません。
みなさんにじっくりと考えていただきたいからです。
(特に、レンズメーターを製造している会社のかたにはぜひとも考えていただきたいと思います)