[論展]「法制化には慎重かつ積極的に」って?

武里連

月刊「眼鏡」(2004.11)の記事から以下、要約抜粋する。

2004.10.12に開催された東海眼鏡競技会(津田節哉代表幹事)主催の、第13回東海眼鏡フォーラムはおいて、「認定眼鏡士制度の今後の展望」という基調講演を大頭仁氏が行なった。

その中で「公的資格への慎重かつ積極的な対応」という部分があったのだそうだ。
ものごとをなすにあたって「大胆かつ細心であれ」と言う。それは必ずしも矛盾ではなく、たとえば戦略は大胆に、戦術は細心に、ということなら、それもひとつのやりかただと思う。

では「慎重」と「積極的」とならどうか。それも必ず矛盾するとは言えないものの、その両立は非常に難しい。

政治家が「ナニナニ法の制定は慎重にすべき」などと言った場合には、「反対」と遠回しに言っているわけだ。

また、会社の会議で「それについては慎重に取り組むべきだと思います」と言う人がいたとすれば、それは、それをやってうまくいってもいかなくても自分は咎められないようにというずるい逃げかたの発言なのである。

うまくいかなかった場合には「だから慎重にと言ったのに」と言えばよいし、うまくいった場合には「自分は何も実施することに反対したわけではない」と言えるからである。

それで、今回の大頭氏の「慎重かつ積極的」というのはどういうことかというと、なるべく速く実現させるべきだという要望に対しては「拙速はいかん。慎重にすべき」と言って、すぐにはどうにもならないことの言い訳をしているわけで、そうかと言って、「慎重」だけだと「やる気がないのか」と受け取られるので、一応ポーズとして「積極的」を付け加えておいた、ということなのであろうと私は推察するのである。

また大頭氏は「これまでの眼鏡業界を見ると、眼科医対眼鏡商で不思議な対立の構図がある」とも発言されたそうだが、私は「どこが不思議なのか」と言いたい。

私に言わせれば、両者が「普通のメガネの処方」という業務の重なる部分を持っている以上、個々の仲良しの結びつきはあっても、全体としては仲良くなれないのは当然のことなのである。

この重なり部分がある以上、未来永劫、眼科と眼鏡店は、全体として気持ちの良い協力関係にはなれないのである。

これは我が国の眼科と眼鏡店に限らず、どこの国でも、どこの業界でも、そういう「何らかの業務の重なり部分」を持っている両者(あるいは3者以上)は仲良くなれない。

たとえば、補聴器を扱わないメガネ屋は近隣の補聴器専門店とはまったく対立しないし、
顧客を紹介しあったりして仲良しにもなれる。しかし、メガネも扱う近くの時計屋さんとは仲良しになれない。

しかも、眼科と眼鏡店の場合には、眼鏡専業店と時計兼業店との対立よりも、より反目せざるを得ない要素がある。それは眼科と眼鏡店との関係においては、店どうしの関係とは違って、眼科の発行する眼鏡処方箋の介在によって、互いに知らんぷりで干渉せずということを貫けないからである。

また、そのあとのシンポジウムで大阪の眼鏡学校の東校長(眼科医)は「メガネは眼鏡士が中心であり、医者との連携システムの構築が重要だ」とおっしゃったそうだが、その前半部分は昔は「眼鏡士と眼科医は車の両輪」と言われていたので、それからすれば、現実的な表現だと思うが、後半部分については、これも昔から言われているし、このことに反対する人は誰もいないのだが、しかし、県の小売組合と眼科医会との連携以上には昔もいまも具体的な事は何も進まないのが実情である。

とにかくこれについては、問題は、個々の眼科と店でどうやるかとか、ある県で眼科と組合の眼鏡店がどうやるかとかいうことではなく、日本全体で眼科と眼鏡店がどういう関係になるのかということなのである。

『眼科では、この眼鏡処方は眼鏡店でもできると判断した眼鏡処方はやめる』 A

これ以外にも、眼鏡店では眼鏡処方を一切やめる、という方法もあるが、それは非現実的であり、国民にとっても良い方法ではない。

現実性のある方法としては、上記の『 』A以外には、眼科と眼鏡店が全体として協力的な関係になる方法は、いまの我が国ではないと私は思うのである。

それにはただ待っているだけでは何も進まない。
だから私たちは「ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会」を作ってアピールしている。

あとは協会や連盟の首脳がこれをうまく利用して眼科と話し合いをしてくださればよいのである。

元来眼科に対して嫌悪に似た感情など持つ必要のない眼鏡業界が、眼科に対してそういう
反発を感じることがあるとすれば、それは眼科発行の処方箋に、ときどき困った内容のものがあるからであり、それ以外には眼科と眼鏡店が反目する要素は何もないのである。

だから、その件に本気で取り組んでもらわないと、業界を代表する大きな組織とは言えないのではないだろうか。

なお、付け加えておくと、私はメガネの眼鏡処方レベルはメガネ店ならどこでも眼科よりも上、と言いたいのではない。それについては、私は眼鏡店ではAクラスからEクラスまであり、眼科はCかDが多い、と思っている。

だから、ユーザーが眼鏡処方を受ける場合に、メガネ店で受けるのと眼科で受けるのとではどちらがより処方レベルの高いメガネを掛けることができるかというのは、一概には言えない。

しかし、眼科とメガネ店の間に板挟みになってユーザーが苦しむということは、『 』Aの方法ではなくなるし、眼科とメガネ店とは気持ちよくユーザーのために協力しあえるのである。

そして、眼科のヘタな眼鏡処方箋はユーザだけでなくメガネ店を困らせることはときどきあるけれど、メガネ店のヘタな眼鏡処方調製で眼科が困るということはまずない。

メガネ店で処方調製してもらったメガネで不調があり、そのメガネ店へかけあってもらちがあかずに、どこかの眼科へ行ったというのであれば、その眼科は普通に検査をして眼鏡処方をして、それで結果はどうであれ、診察料を得る。

眼科処方箋のとおり作ってそのメガネで不調があった場合で、ユーザーが眼科へ文句を言
いにいったとして、眼科が無料で再検査再処方し、入れ替えレンズ代金を眼科が負担する
というのであれば、メガネ店はヘタな眼鏡処方箋で迷惑をするということは、まあ、ないのだが、そういうふうに「眼鏡ユーザーに対して親切な眼科」の話はめったにきかないのである。

ときどき聞くのは、眼科での再処方の場合に、そのメガネを買ったメガネ店に電話をして店の負担でレンズの無料入れ替えをしてくださいと依頼するという話である。

メガネ店にとっては理不尽な話であるが、それでも、多くのメガネ店は、眼科ににらまれたら損ということでその眼科の依頼を受けるようだ。しかし、そういう両者が本当に仲良くなれるはずなどないと私は思うのである。

投稿日:2020年10月24日 更新日:

執筆者:

新しい記事はありません

本会の元代表が全国の眼
鏡技術者向けの技術教本
を発刊しております
岡本隆博著

(近視矯正手術の後遺症対策研究会HPより)

▲ 近視手術をお考えのかたへ
安全性や後遺症についての
資料を集めたサイトです。

PAGE TOP