岡本
商売人というのは、経済人です。そうすると、仕事がらみでは、儲からないことはしない、というかたがほとんどになります。
しかし、その中にも、そうでなくて、世のため人のために、尽くそうという人もいます。
長年にわたって海外でメガネを提供してこられた富士メガネの金井社長も、その一人です。 視覚機能研究会を作られた北出さんもその一人です。そして、フィッティングの技術を同業者に教えておられる横田さんも、その一人です。
横田さんの場合も、その教育事業による収入よりも、手間の方がはるかに大きいと思います。商売的には、そういう自分が苦労して身につけた高度な技術は同業者になど教えない方が有利なのは当然なのですが、横田さんはそういう狭い見地から脱して、全国の同業者を通じて、ユーザーにより快適なメガネをかけてもらおう、ということで全国を対象にその教育事業を展開しておられるわけです。
いまでも、横田さんにはそういう色は残っているかとも思いますが、はじめのころは、「大型店に負けるな」というタイトルで主として中小店を対象に講習をしておられました。
それは、大型チェーン店ばかりが増えていくのは業界のためにもユーザーのためにも好ま
しくないという横田さんのお考えからだと思います。
それには私も同意です。なぜなら、大きい店が増えれば増えるほど、依頼者に尽くすプロ
フェショナルでなくて、会社の儲けにより貢献しようという(販売の)プロが増えるからです。
名前は「眼鏡士」であっても、そして「士」の気持ちは持っていても、それを貫くのは、被雇用者では非常に難しいのです。
ただし、例外的に、その会社の社長が、プロフェッショナル精神、「士」の精神にあふれたかたなら、一概には言えないかもわかりません。
しかし、大きくなればなるほど、第一番目に売り上げが大事、となってしまうものです。
もちろん、メガネの大型店には、それでこその利点もあるのですが、その長短を考え合わ
せると、私は、今後この業界において大型店のシェアーが増えるよりも、独立自営の優秀
なプロフェショナル眼鏡士のいる店が増える方が、ユーザーにとっては望ましいと思って
います。
なお、誤解のないように書き足しますと、中小店の眼鏡技術者でも、儲け第一でプロフェッショナルの精神を持たない人は大勢います。
逆に、大型店の雇われ眼鏡技術者でも、それを持つ人はいるでしょう。
しかし、それを持ったとして、それを自分の思うように発揮できる可能性ということで言えば、やはり自営の人でないとほとんど無理ということなのです。
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